機械構造が持つ駆動部品や輸送中の路面状況、あるいは風といった外部環境など様々な要因で振動は生じます。こうして生じた振動は、多くの場合構造物や機械部品・アセンブリにとって故障や損傷につながります。振動解析は、構造物や機械の故障要因を検出し予防するための有効な診断プロセスです。エンジニアは振動解析を行い、システムの振動数や振動パターンを調べ、異常や変化を見つけます。特にモータ、コンプレッサ、ギアなどの駆動系に関わる部品の場合、発生し得る問題の兆候やリスクを捉えるために有効な手法です [1]。
どのように振動するかを調べることは、機械や構造物の状態を把握し、設計の修正やメンテナンスの必要性に役立てられます。完全クラウドCAEプラットフォームであるSimScaleでは、ウェブブラウザ上で利用可能な振動のシミュレーション機能を提供しています。対象物の固有振動数や振動モード、振動時に生じる応力や変位、速度など様々な項目を数値計算で解析し、生じうる現象を可視化できます。
振動解析を活用すると、機械や構造物の寿命を延ばすことに活用できます。また多くの製品は、国際的な標準化団体によって定められた規則に従って、安全性を確認するために振動試験に合格する必要があります。SimScale の構造解析機能を用いることで、シミュレーションで振動評価を行い、試作と実際の振動試験を最小限に抑えることは、試作コストや実際に構造物が破損するリスクの低減につながります。
アニメーション1: SimScaleによるバッテリモジュールの振動解析
SimScaleでは、ウェブブラウザですぐに静荷重・動的な現象・熱変形・振動など様々な現象の解析をおためしいただけます。
振動の基礎
振動のパラメータ
振動は、繰り返し力、不均衡、機械部品のずれなど、さまざまな要因によって発生します。実際に振動を測定する際には、測定器で変位・速度・加速度の3つの主要な変数が測定されます。変位の大きさは通常 mm または μm 単位で、速度の大きさは mm/s で、加速度の大きさは \( mm/s^2 \) または gで測定されます。これらの値のうち、いずれかを測定して得られた時刻歴の波形より、振動数や振幅といった振動の特徴的な値を求めます。
振動の種類
振動には主に2つの種類があります:
- 固有振動:
共振とも呼ばれる固有振動が発生すると、システムは固有振動数で振動します。駆動部品の動作周波数と機械の固有振動数が一致した場合、このタイプの振動は過大な振動を引き起こす可能性があるため、問題となります[1]。周波数解析を使用すると、ユーザーは構造物の固有振動数を調べて、設計した構造の全体的な変位挙動と剛性だけでなく、特定の場所の局所的な剛性あるいは生じる応力も評価できます。 - 強制振動:
外力によって引き起こされるシステムの振動を強制振動と呼びます。例えば、モーターやポンプの運転によって引き起こされる機械システムあるいは構造物の振動が挙げられます[1]。このような外力や加振力は、調和的、周期的、非周期的、またはランダムなど様々な振動形態をとりながら、システムに振動のエネルギーを与えます[2]。
機器に振動を励起する要因は多種多様で、例えば、重心と回転軸が一致していない回転体の不釣り合いなどもあります。振動の抑制や決定論的カオスなどの非線形プロセスも研究されています。振動分析は多目的な計測器具であり、品質保証、保守、診断には欠かせません。
機器の加振力には、重心と回転軸が一致していないロールインバランスのような様々な原因があります。振動抑制や決定論的カオスのような非線形過程も含めて、日々様々な研究がなされています[3]。汎用性の高いツールである振動解析は、品質保証、メンテナンス、診断に不可欠です。
図 1: 強制振動によって減衰振動が生じているシステムの振幅応答プロットの例。横軸は加振振動数と非減衰時の固有周波数の比(ω/ωn)、縦軸は応答倍率。[Geek3, CC BY 3.0, via Wikimedia Commons]
振動の分析方法
振動を分析する際の手順
実際に生じている振動現象を分析するときは、以下のようなプロセスで行われます[1]:
- 事前のデータ収集:
対象とする機械や設備の環境や動作条件を確認し、測定に必要なセンサなどの情報を収集します。 - 振動測定:
加速度ピックアップや変位計など、さまざまなツールを使用して振動を測定します。近年では画像計測による手法もございます。 - データ解析:
収集されたデータをソフトウェアとアルゴリズムを使用して処理します。場合によっては、ここで規格と照合します。 - 結果の解釈:
分析者は、生じている振動問題に大きく関わる周波数を特定するために、データの解析結果を解釈します。例えば、回転体のミスアラインメントやベアリングに起因する場合は、最も低い周波数成分と装置の回転数に着目すると欠陥に気づける場合があります。 - 設計変更または保守:
設計段階であれば、試験で異常が発見された場合、測定データの解釈を参考にして設計を変更します。運転段階では、異常検出のアラームしきい値を設けることができます。アラームしきい値には、絶対値、傾向値、統計値などがあります。振動がこれらのしきい値を超えると、メンテナンスやさらなる調査など、タイムリーな対応が求められます。
エンジニアリング設計では、物理的なテストが不可欠ですが、複数のテストを実施して様々なパラメータを評価する必要がある場合、かなりのコストと時間がかかります。そこで、シミュレーションによる振動解析が重要な役割を果たします。
振動データの分析に用いられる手法
振動データの解析には様々な手法があります。これらは以下のように定義できます:
- 時間領域解析:
時刻歴の波形そのままの振動信号を評価します。ピーク振幅やRMSといったデータを抽出できます。過渡事象を確認し、振動レベルの変化を追跡することで、運転限界を設定できます。運転時間がこのリミットを超えることは、機械の摩耗や欠陥が示唆されます[4]。 - 周波数領域解析:
高速フーリエ変換(FFT)を利用して時間領域の信号を周波数領域に変換します。これにより、機械的な欠陥に関連する特定の周波数が明らかになり、異常な振動パターンを見つけるやすくなります。例えば、ベアリングの外輪にクラックが発生し、ころとの接触による周期的な衝撃が発生した場合、時間波形では見逃してしまう可能性がありますが、周波数スペクトルでは特徴的なピークが観測されます[4]。 - エンベロープ解析:
振動波形の包絡線を周波数解析します。これにより、高周波の衝撃に近い信号を振動全体から分離できます。例えば、軸受の欠陥を早期に検出することに役立てられます。 - 実験モード解析:
機械の固有振動数、振動モード形状、減衰特性を特定する高度な手法で、機械の動的挙動や潜在的な構造的・共振的問題を理解するのに役立ちます。[5]。
SimScaleでは、有限要素法(FEM)に基づくシミュレーションにより、数値計算で対象物の固有振動数や振動モードが得られます。得られた結果をもとに設計を修正し、新たな設計案の振動特性を再び計算して改善効果の確認にも役立ちます。
図2: ウィッシュボーンサスペンションの固有振動数解析
SimScaleにおける振動解析
SimScaleは、クラウドコンピューティングを活用した構造解析機能を提供し、エンジニアにとって強力な振動解析ツールとなっています。これにより、以下のようなクラウドを活かしたシミュレーションが可能となります:
- 同時に並列シミュレーションを実行し、複数パターンを検討する解析時間を大幅に短縮します。
- いつでもどこでも、ウェブブラウザだけでFEMシミュレーションにアクセスできます。
- ソフトウェアのバージョン管理、インストール、メンテナンス、およびハードウェアに関連するコストを節約します。
SimScaleの機能の一つとして、振動パターンを分析することが挙げられます。SimScaleの固有値解析によって、構造物の固有振動数と対応する振動モード形状が得られます。これにより、動作環境における共振のリスクや振動のしかたを評価するのに役立ちます。さらに、SimScaleの適応性は単純な形状に制限されず、さまざまなCADファイルタイプへの対応により、実際の部品形状に近いモデルで評価いただけます。
SimScaleによる振動解析の例
SimScaleの振動解析機能は、自動車・航空機・産業機器をはじめとした様々な業界・製品で適用できます。ここでは、モータを固定するブラケットの検討に用いた例を示します。
この検討の目的は、ブラケットの固有振動数がモータの運転回転数の外にあることを確認し、共振による部品の損傷やボルトの緩み、部品間のクリアランスの現象、望ましくない騒音の発生を防ぐことです。これにより、エンジニアは設計したモータブラケットが寿命のなかで安定的かつ効率的に運用できるか示唆を得られます。
下図は、CADデータからシミュレーション結果の可視化までのワークフローを示しています。シミュレーションによって、ブラケットの固有振動数、振動モード、モーダル有効質量(MEM)、正規化モーダル有効質量、および累積正規化モーダル有効質量(CNME)といった値が得られ、設計の検討に役立てられます。さらに、SimScaleでは、どのような形状であればブラケットの固有振動数をモータの回転数から遠ざけられるかを検証するために、複数のブラケットの設計案に対して同時にシミュレーションを実施し、設計案の比較検討を早く行えます。これにより、振動による可能性のある故障のリスクを最小限に抑えます。
図3 左から順に、もとのCADデータ、メッシュ分割、結果表示
SimScaleでは、ウェブブラウザですぐに静荷重・動的な現象・熱変形・振動など様々な現象の解析をおためしいただけます。
参考
- C. China, “What is vibration analysis and how can it help optimize predictive maintenance?,” IBM 2023. Available: IBM, https://www.ibm.com/blog/vibration-analysis/
- G. Chen, “Handbook of Friction-Vibration Interactions”, Woodhead Publishing, 2014, Pages 9-70, https://doi.org/10.1533/9780857094599.9
- J.J. Thomsen, “Vibrations and Stability. Advanced Theory, Analysis, and Tools”, Springer, 2021, ISBN: 978-3-030-68044-2, https://doi.org/10.1007/978-3-030-68045-9
- TWI-Global, “What is Vibration Analysis and what is it used for?”, TWI-Global, 2023. Available: TWI-Global, https://www.twi-global.com/technical-knowledge/faqs/vibration-analysis
- T.-H. Le, Y. Tamura, A. Yoshida, N. Dong, “Frequency Domain versus Time Domain Modal Identifications for Ambient Excited Structures”, International Conference on Engineering Mechanics and Automation (ICEMA 2010), Hanoi, July 1-2, 2010. Available: ResearchGate, https://www.researchgate.net/publication/285397109_Frequency_Domain_versus_Time_Domain_Modal_Identifications_for_Ambient_Excited_Structures
この記事は、以下をベースに作成されました。
What is Vibration Analysis? | FEA | SimWiki | SimScale https://www.simscale.com/docs/simwiki/fea-finite-element-analysis/what-is-vibration-analysis/
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