誘導加熱の原理や、渦電流損失、ヒステリシス損失、表皮効果や誘導加熱の応用について、図解とともにわかりやすく解説します。

誘導加熱(IH)とは

誘導加熱 (IH: Induction Heating) は、電磁場を利用して金属などの導電性材料に直接接触することなく熱を発生させる、非常に効率的な加熱プロセスです。電磁誘導の原理に基づき、材料自体に渦電流が誘起されることで熱を発生させるため、精度と速度が求められる用途に最適です。

従来の加熱方法とは異なり、誘導加熱は、正確な温度制御、急速加熱、エネルギー損失を最小限に抑えられるなど、多くの利点を備えています。クリーンで再現性の高い加熱性能のため、製造業、医療、食品加工など、様々な業界で広く採用されています。しかし、効果的な誘導加熱システムの設計は、特にコイル構成の最適化や均一な加熱の確保など、困難な場合があります。

そこでSimScaleの登場です。SimScaleのクラウド環境を最大限に活用した電磁界解析プラットフォームにより、高精度かつスケーラブルに誘導加熱(IH)シミュレーションを行うことができ、設計検討におけるスムーズな意思決定を後押しします。

プロセス/化学/食品
IH調理器の電磁界解析

この記事では、この誘導加熱(IH)について、原理から仕組み、そして実際の活用例に至るまで、わかりやすく解説していきます。

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図1: SimScale電磁気シミュレーションを使用した誘導加熱(IH)解析

誘導加熱の利点

誘導加熱は、効率的かつ多用途な加熱技術として知られています。火を使った加熱や、オーブンといった従来の加熱方法に比べて、以下の利点があります。

1. エネルギー効率とコスト削減

誘導加熱は、材料の必要な部分のみに熱を集中させることで、エネルギーの無駄を最小限に抑えます。この精密なターゲット設定により、全体的なエネルギー消費量と運用コストが削減され、産業用途において長期的なコストメリットが期待されています。

2. 自動化と生産ラインの統合

誘導加熱システムは自動化に適しており、生産ラインへのシームレスな統合を可能にします。これにより、誘導加熱を使用した焼入れやろう付けなどの他の工程と並行して実施できるため、材料搬送による遅延がなくなります。その結果、製造効率が大幅に向上します。

3. クリーンで安全な操作

誘導加熱は、有害な排出物や周囲環境へ過剰に熱放射せずに動作します。従来の炉や炎を用いた方法とは異なり、誘導加熱は煙、汚れ、その他の汚染物質のない、清潔で安全な職場環境を実現します。これらの特性により、持続可能性や従業員の安全を重視する産業に最適です。

4. 精度と再現性

誘導加熱システムを適切に構成すれば、一貫性と再現性のある結果が得られ、生産サイクル全体を通して同一の部品に対し均一に加熱できます。この精度により、航空宇宙、自動車、医療機器の製造といった用途において、高い品質が維持されます。

5. 高速かつ局所的な加熱

誘導加熱は材料内部に直接熱を発生させ、急速な温度上昇と局所的な加熱を可能にします。これにより、周囲への影響を最小限に抑え、溶接や接着といった複雑な工程を高い精度で行うことができます。

誘導加熱の原理

誘導加熱とは、電磁誘導を利用して導電性材料内に熱を発生させることです。このプロセスでは、高周波の交流磁場を発生させ、この磁場が材料と相互作用することで、渦電流とヒステリシス損失という2つの主要な現象によって熱を発生させます。

1. 誘導加熱を引き起こす2つの現象:渦電流損失、ヒステリシス損失
  • 渦電流:導電性材料を交流磁場中に置くと、電磁誘導により材料内に渦電流が流れます。この渦電流は電気抵抗により流れを妨げられ、熱が発生します。熱はジュールの法則により下記のように計算されます。
    $$ Q =R I^2 t $$
    \({Q} \)は発生するジュール熱、\({R} \)は抵抗、\({I} \)は電流、\({t} \)は電流を流した時間です。
  • 磁気ヒステリシス:磁性材料の場合、交流磁場に反応して材料内の磁区が再配列することで内部で摩擦のような現象が発生し、エネルギー消費によって熱が発生します。
図2: 誘導加熱プロセス (Rochoより抜粋)
2. 誘導加熱がもたらす現象:表皮効果

誘導加熱のユニークな特性の一つに表皮効果があります。これは、交流磁場が材料の表面付近に渦電流を集中させる現象です。この現象により、エネルギー損失を最小限に抑えながら局所加熱が可能になります。熱の浸透深さは交流電流の周波数に依存します。

  • 高周波:浸透深さが浅い加熱が可能になり、表面処理に最適です。
  • 低周波:磁性材料の場合、より深い加熱が可能になり、大量処理に適しています。

誘導加熱の応用

誘導加熱は、導電性材料を非接触で迅速かつ効率的に加熱する方法であり、産業、家庭用、医療用途など、様々な用途で利用が進んでいます。火を使った加熱、抵抗加熱、従来のオーブンや炉といった従来の加熱技術に比べて、効率と性能に優れていることから、広く採用されています。誘導加熱アプリケーションの進歩と拡大は、パワーエレクトロニクス、変調・制御アルゴリズム、そして磁性部品設計の進歩に大きく影響されてきました。

1. 産業用

産業分野では、誘導加熱は1900年代初頭から金属溶解に利用されてきました。その後、その用途は以下のように拡大しました。

  • 溶解と鍛造: 金属を溶解温度または鍛造温度まで効率的に加熱し、均一性を確保してエネルギー消費を削減します。
  • ろう付けと溶接: 熱の影響を最小限に抑えながら金属部品を接合し、材料の性質を維持します。
  • 表面硬化: 特定の領域を局所的に加熱することで、特に自動車や航空宇宙部品の耐摩耗性が向上します。
  • 焼き嵌め: 組み立て時に熱を集中的に使用して部品を一時的に拡張し、冷却時に完全に嵌めこむようにします。
2. 日用品および食品

家庭用途では、誘導加熱はIHコンロなどの調理器具で特に効果を発揮します。IHコンロは加熱時間の短縮、正確な温度制御、表面温度の低下といった利点があり、安全性と清潔性が向上し、食品の焦げ付きを防ぎます。食品業界は誘導加熱によって次のようなメリットも得られます。

  • 包装プロセス: 誘導加熱シールにより、食品および医薬品の容器の気密性が確保されます。
  • エネルギー効率の良い調理: IH調理器は、エネルギー損失を最小限に抑えながら食べ物を素早く調理できるためよく使用されます。
3. 医療用途

医療分野では、クリーンで効率的な誘導加熱が広く採用されています。当初は手術器具の製造と滅菌に重点が置かれていましたが、近年の進歩により、温熱療法 (誘導加熱により、低侵襲治療のために正確で局所的な加熱を提供し、周囲の組織へのダメージを軽減するもの) が可能になりました。

パワーエレクトロニクス、制御アルゴリズム、磁性部品設計における最新の進歩により、誘導加熱の適用範囲はさらに拡大しました。産業界は、積層造形、再生可能エネルギー技術、先進材料処理におけるその可能性を探求しています。

誘導加熱システムにおける課題と解決策

誘導加熱システムは多くの利点を提供しますが、同時に革新的なソリューションを必要とする特有の課題も抱えています。特に複雑な形状や導電性の異なる材料において、均一な温度分布を実現することは、エンジニアが直面する主要な課題の一つです。

1. 誘導加熱の課題
  • 複雑な形状: 不規則な形状や複雑な部品は加熱が不均一になり、最終製品の品質が損なわれる可能性があります。
  • 材料のばらつき: 材料間の透磁率と導電率の違いにより、熱発生の効率が影響を受け、ホットスポットや加熱不足の領域が生じる可能性があります。
  • 精度要件: 特に航空宇宙や医療製造などの業界では、多くの用途で材料の完全性を維持するために厳密な温度制御が求められます。
2. 解決策としてのシミュレーション

電磁界シミュレーションは、これらの課題を克服するための強力なアプローチを提供します。SimScaleのクラウドネイティブシミュレーションプラットフォームのような高度なツールを活用することで、エンジニアは比類のない精度で誘導加熱システムを設計、解析、最適化できます。シミュレーションの主な利点は以下の通りです。

  • 電磁界解析: シミュレーションにより、電磁場が対象製品とどのように相互作用するかを詳細に理解できるため、均一な加熱のためにコイルの設計と電力設定を調整できます。
  • 材料と形状の洞察: シミュレーションにより、さまざまな材料と形状が誘導加熱にどのように反応するかを調査し、設計段階の早い段階で非効率性を特定して軽減することができます。
  • 最適化されたコイル設計: さまざまな構成を仮想的にテストすることで、エンジニアはコイルの形状を改良し、複雑な形状の場合でも目的の加熱パターンを実現できます。

SimScaleのクラウドネイティブ・プラットフォームなら、アカウントを作成するだけで数分でシミュレーションを開始できます。インストール不要・特別なハードウェア不要・クレジットカードも不要です。

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