1. はじめに
この記事について
この記事ではSimScaleを用いた風環境シミュレーションを行った事例を紹介します。対象とする地域は、ビル風が強いと噂される中野坂上です。PLATEAUの3Dモデルを用いています。PLATEAUモデルの利用方法については、以下の記事をご覧ください。
中野坂上はビル風が強い?!
中野坂上は弊社の事業所も所在する場所ですが、沿岸部から離れた内陸部にもかかわらず、風が強い地域と認識されています。Web検索でも同様の指摘がたくさんヒットします。タレントのダンカンさんのブログによると、ビル風が強いことから「死の谷」と呼ばれているそう。
噂の真相について、シミュレーションで確認します。以下は実際のSimScaleの画面です。山手通りと青梅街道の2つの大きな道路が交差するのが特徴です。高層のビルが密集しているわけではありませんが、交差点には東西に高層建築物があります。
2. 計算条件
全16風向のシミュレーションを実施します。風の強さとその頻度を表す風配図は、meteoblueから自動取得しました。流入風は日本建築学会が定めるものとし、周辺状況を鑑み地表面粗度区分IIIとしています。下図は中野坂上の風配図です。特に南と北北西から強い風が頻繁に吹くことが分かります。
風環境解析について詳しくは以下のページをご覧下さい。
3. シミュレーション結果
下図は日本で広く用いられる村上法による評価結果です。16風向の結果から総括して風による快適性を4段階で評価するものです。A(青)の領域が快適、D(赤)の領域にかけて不快になることを示します。
交差点の付近に赤い領域がとても多いことが分かります。噂通り中野坂上はビル風が強い地域といえるでしょう。ビルの影響で、局所的に風速が大きくなる地域であることが伺えます。ビルが建つと、必ずビル風が発生します。重要なのは、そのビル風を①どのように分散させるか、②居住地域や歩道からどう逸らすかです。中野坂上では、ビル風が交差点に集中し、交差点から離れた居住地域は青い快適な領域となっています。
ビル風は三次元の複雑な形状が影響して発生するため、勘や経験で予測するのは難しいです。シミュレーションによる迅速な予測は、ビル風対策に大きな効果をもたらします。
4. 結果の考察
村上法の結果は、16風向を総括しているため原因を特定することはできません。風配図から強い風が吹く頻度の高い風向の結果を確認し、原因を考察します。ここでは、南の風を確認します。
交差点の付近は、様々な方向の風が入り乱れ、風速が大きくなっています。中野坂上で発生しているビル風は以下の理由と考えられます。
- 強い風の吹く風向と山手通りの方向が一致していることから、谷間風が発生
- 周りの建物が低層なのに対し、交差点の東西に高層ビルがあることから、高層ビルの上方にあたった風が、ふき下ろすダウンウォッシュ(逆流)が発生
- 交差点の建物の角部で剥離流が発生
これら3つが複合的に発生することで、流れ場が複雑かつ風速が大きくなっていると考えられます。このように、シミュレーションは風洞実験と異なり、風の流れを視覚的にとらえることができるので、現象を把握し、合理的な対策を検討することができます。
このビル風の対策について、詳しくは以下の記事をご覧ください。
5. おわりに
この記事ではビル風が強いと噂される中野坂上について、SimScaleでシミュレーションを行った事例を紹介しました。ビル風が局所的に発生する複雑な現象であることをご確認いただけたかと思います。ビル風の解析は解析モデルが都市レベルで巨大であることや、複数風向を実施する必要があることから、計算コストがとても大きいです。従来はシミュレーション用の高価なコンピュータを用意し、数日かけて計算する必要がありました。SimScaleは完全クラウドのWebアプリとして提供されており、一般的なノートPCから環境構築不要で高速に計算することができます。今回の計算時間はたったの40分でした。SimScaleは、ビル風の解析も設計の初期段階から気軽にご実施いただくことができ、自然と共生した建築設計を実現します。