ビル風の発生原因と対処法 - 逆流 (ダウンウォッシュ)

1. はじめに

この記事について

この記事では、SimScaleを用いて逆流 (ダウンウォッシュ)が発生する現象の再現と、それに対する対策を行う事例を紹介します。

逆流 (ダウンウォッシュ)

ビル風と一口に言ってもその発生原因は大きく次の2つがあります。

1. ビルとビルの間の細い通路を風がまとまって流れる
2. 地表より速い上空の風が吹き下ろす

1に関してはビル風として最もイメージのしやすいものです。流体は流路の断面が小さくなった時に速くなります。ホースで水やりをしているときに、ホースの先を押しつぶすことで、水が早く流れる現象のように、ビルがある部分を流れるはずだった風が、狭いビルとビルの間に集中することで、高速に流れます。この対処法として生垣や樹木などの植栽、ファサードなどで風を低減することが行われます。

2は「逆流 (ダウンウォッシュ)」と呼ばれる現象です。風速は地表付近は小さく、上空にかけて高度を上げるにつれて大きくなります。この上空を流れる速い風が、ビルに衝突し高速の下降気流が発生することが原因です。1が高層の建物が密集している都市部の場合に発生しやすいのに対し、2は条件によっては郊外でも発生する可能性があり注意が必要です。どんな場所でも起こりうる可能性がありますが、その可能性は潜在的で直観や経験で予測することが難しいものです。そこでシミュレーションによる予測と改善案の検討が効果的な事例といえます。

2. シミュレーションによる解析結果

下図はシミュレーションによる解析結果です。上空の風が建物にあたることにより下向きの逆流 (ダウンウォッシュ)の風を発生させていることが分かります。風洞実験と異なり、シミュレーションは風の流れを視覚化できるので、現象を把握しやすいことがメリットの一つです。

下図は快適性の評価結果です。灰色(A)が快適な領域であり、赤(E)が不快な領域になることを示しています。図中の破線部が歩行者が最も頻繁に通る道とし、この部分の快適性を改善することをターゲットに対策を行います。

3. 改善案とその効果

都市環境において歩行者の高さの逆流 (ダウンウォッシュ)の風の影響を低減するアプローチとして①風の向きを変える ②風のエネルギーを低減する ことの2つがあげられます。以降では具体的な対策内容とその効果をご紹介します。

I. 建築物の形状

セットバックと呼ばれる下階よりも上階が後ろに下がっている状態の建築物に形状を変更します。日本ではセットバックは日照権の確保のためにこの形状を採用することが多いですが、ここではセットバックにより風の向きを変えることを目的としています。

下図より、快適性の指標でも赤色の不快な領域が劇的に減少していることが分かります。これは建築物にあたって建築物に沿うように流れていた逆流 (ダウンウォッシュ)の風が、セットバックによる凸部分に衝突し、風が分散したためです。

II. ひさしの設置

ひさしは日よけや雨よけの用途で設置されることが多いですが、セットバックと同じような効果で逆流 (ダウンウォッシュ)の風を乱すことによって、これを低減する効果があります。

比較図を見ると、セットバックと比較すると効果は小さいですが、赤色の不快な領域が減少していることが分かります。設計案が固まってしまった後の対策として有効であることが示唆されます。

III. 植栽

生垣や樹木などの植栽は、現在ビル風の対策として最も用いられている対策の一つです。風が植栽にあたると、植栽が風が持つエネルギーを吸収し、ビル風速度を大幅に低減することができます。今回は逆流 (ダウンウォッシュ)の風の通り道を樹木を配置し、それによる効果を検証してみました。

IV. 都市レベルでの配置

都市レベルの設計段階では、高層建築物の配置位置変更でも、この逆流 (ダウンウォッシュ)の風を低減するようにできます。以下の事例では、高層建築物の位置を奥の低層建築物と入れ替えます。

このように高層建築物と歩道の間に低層建築物があるように配置することで、逆流 (ダウンウォッシュ)の風を低層建築物が隔てて、歩道への影響を低減します。

4. まとめ

都市設計・高層建築設計において、逆流 (ダウンウォッシュ)の影響を低減することは、快適かつ持続可能で魅力的な都市を創造するために重要です。シミュレーション技術を活用することで、建物・街路・地形についても空気力学特性と歩行者にとっての快適性を検証できるようになります。進化するテクノロジーは、美的なだけでなく生活の中で歓迎される、調和された形での都市の進化にも役立っていくことでしょう。

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