「解析エラーが消えない」「出た結果が正しいのか自信が持てない」。 多忙な設計業務の合間を縫ってCAEに取り組むものの、成果が出ずに疲弊してしまっているエンジニアは少なくありません。

設計のフロントローディング化自体は正しい方向性ですが、現場で運用が定着しないケースでは、設計者が「専任者と同じアプローチ」で解析しようとして行き詰まっていることがよくあります。

本記事では、設計者CAEが失敗しやすい構造的な要因(誤解)を整理し、忙しい設計者が最低限の工数で設計判断を下すための、現実的な運用の考え方について解説します。

なぜ設計者CAEはうまくいかないのか?陥りやすい2つの要因

「使い方は研修で教わったはずなのに、いざ自分の案件でやろうとするとうまくいかない」。 この悩みの根本原因は、個人のスキル不足よりも、そもそも解こうとしている問題の設定がCAE向きではない場合が考えられます。特に陥りやすい2つのポイントがあります。

1. 製造用モデルをそのまま解析しようとしている

大きな誤解の一つは、普段作成している3D CADデータを、そのままCAEソフトにインポートして計算しようとすることです。 設計者が作成するモデルは詳細設計(製造用)モデルです。そこには、製造に必要な微細なフィレット(R)、面取り、公差を考慮した段差、部品番号の刻印、あるいは小さなネジ穴などが含まれています。 これらはモノを作るためには不可欠な情報ですが、物理現象を計算する上ではノイズになります。

CAEソフトは、モデルの形状に合わせてメッシュを切ります。モデル内に極端に小さな面や複雑なRが存在すると、ソフトはその部分を再現しようとして極小のメッシュを生成します。その結果、メッシュ数が爆発的に増えたり、要素品質が悪化してエラーを引き起こしたりします。 エラーが出ると、どこが原因かを探し、CADに戻って修正し、再度インポートする……という手戻りが発生します。この形状修正のイタチごっこが、設計者の時間を奪っている要因です。

2. 絶対値(保証値)を算出しようとしている

もう一つの誤解は、CAEの結果として絶対的な正解(保証値)を求めすぎている点です。 「この部品の最大応力は〇〇MPaである」とピンポイントで算出する作業は、非常に難易度が高いものです。メッシュのサイズ、要素の種類、境界条件(拘束や荷重)の与え方ひとつで、計算結果の数値は数%~数十%変動します。

これを正しくコントロールし、実験値と合うように合わせ込むには、材料力学や有限要素法(FEM)の深い知識と経験が必要です。これは本来、解析専任者が時間をかけて行う領域の仕事です。 設計者がこの絶対値の精度にこだわると、「メッシュを細かくしたら応力が上がってしまった、どっちが正しいんだ?」という迷宮に入り込んでしまいます。結果の妥当性を検証する術がないため、自信を持って設計変更に踏み切れず、解析した時間が無駄になってしまうのです。

設計者が目指すべきゴールは、正解ではなく比較

では、多忙な設計者はどうすればよいのでしょうか。 重要なのは、専任者と同じ土俵で勝負するのをやめ、設計者CAEのゴールを精度の追求から「判断の支援」へシフトすることです。

絶対評価ではなく相対比較に特化する

設計者CAEにおいて有効なのは、「壊れるか壊れないか」の絶対評価ではなく、「A案とB案、どちらが優れているか」の相対比較に徹することです。 例えば、「リブを追加した形状(B案)」が、「現行形状(A案)」と比較して、応力が何%低減したかを見ます。

この場合、仮にメッシュサイズが多少粗くても、境界条件が厳密でなくても、A案とB案を「同じ条件・同じメッシュサイズ」で計算していれば、誤差の傾向は相殺されます。つまり、「B案の方が応力が下がる」という定性的な傾向(大小関係)は、高い確率で正しく得られます。

設計者に必要なのは「応力が150MPaか155MPaか」という精密な数字ではなく、「リブを入れると効果があるのか、ないのか」という設計判断のための材料です。相対比較であれば、高度な解析スキルがなくても、この判断材料を素早く手に入れることができます。

CAEを実験代わりではなくコンパスとして使う

CAEを使うタイミングも重要です。設計がほぼ完了した最終段階で、念のための確認としてCAEを使うのは避けるべきです。そこでNGが出れば、手戻りの工数が甚大になるからです。 設計者CAEは、構想設計や基本設計といった上流工程で、「進むべき方向を決めるコンパス」として使うのが本質です。

まだ詳細形状が決まっていない段階で、大まかなブロック形状で解析を回し、「肉厚を増やすべきか、材質を変えるべきか」のアタリをつける。この段階であれば、モデルも単純なのでエラーも出にくく、計算もすぐに終わります。 精度は60点でも構いません。方向性さえ合っていれば、その後の詳細設計で迷う時間を大幅に減らすことができます。

明日から使える、設計者CAEの運用ルール

考え方をシフトした上で、実務において工数を爆発させないための具体的な運用ルールを紹介します。

解析のために形状を割り切る技術

解析エラーを防ぎ、計算時間を短縮するために重要なスキルは、形状簡略化です。これは文字通り、解析の目的に不要な特徴を除去することです。

  • R(フィレット)を削除し、ピン角にする:応力集中を見たい箇所以外のRは、メッシュ品質を悪化させるだけなので削除します。
  • 小さな穴や段差を埋める:剛性に影響しないレベルの空気抜き穴や、微小な段差は埋めてフラットにします。
  • 部品を一体化する:全体の剛性を見る目的であれば、ボルト締結を真面目に定義せず、接触面を結合させて一体部品として扱います。

これらは製造図面としては嘘ですが、解析モデルとしては正解です。 「解析のためにモデルを簡略化するなんて、精度が落ちるのでは?」と不安になるかもしれませんが、前述の相対比較やコンパスとしての利用であれば、細部の形状差は大きく結論に影響しません。 「いかに詳細に描くか」ではなく、「いかに大胆に省略するか」が、設計者CAEを使いこなすコツです。

深追いは厳禁。30分ルールと業務移管

どれだけ工夫しても、設計者の手に負えない解析テーマは存在します。泥沼にはまらないためには、撤退ラインを明確に引くことが重要です。 おすすめなのは30分ルールのような時間制限を設けることです。 解析の設定(前処理)に30分以上かかるなら、やり方が間違っているか、テーマが難しすぎると判断し、作業を中断します。

また、扱う物理現象についても線引きが必要です。

  • 設計者がやること:線形静解析(部品単体~小規模アセンブリ)、固有値解析
  • 専任者に任せること:非線形解析(ゴムの大変形、塑性加工)、衝突解析、熱流体連成解析

このように業務移管の基準を明確にし、「これ以上は専任者の領域です」と説明できるようにしておくことで、無茶な解析依頼による業務圧迫を防ぐことができます。

運用をさらに加速させる「完全クラウドCAE」という選択肢

ここまで紹介した相対比較や早期検討といった運用を、さらに効率的に進めるための環境として、近年注目されているのがクラウド型CAEです。 従来のオンプレミス型CAEでは、「PCのスペック不足で計算に時間がかかる」「ライセンス数が足りずに待たされる」といった課題がありましたが、クラウドを活用することでこれらの制約から解放されます。

設備投資不要で、高度なシミュレーションを可能にするSimScale

SimScaleは、ウェブブラウザでログインするだけで利用できる完全クラウドCAEソリューションです。

  1. 高性能マシンや環境構築が不要
    解析の計算処理はすべてクラウド上の高性能サーバーで行われます。そのため、高価なワークステーションの購入や、面倒なライセンス管理・インストール作業は一切不要です。普段使っているノートPCが、ブラウザを開くだけで高性能なシミュレーションマシンに変わります。
  2. 相対比較を加速させる同時解析
    SimScaleは、同時に実行できるシミュレーション数に制限がありません。 本記事で推奨した「A案とB案の比較」を行う際も、順番に計算して待つ必要はなく、複数のパターンを同時に流して結果を即座に比較検討できます。これにより、設計のトライアンドエラーのスピードが劇的に向上します。
  3. チームでのコラボレーションを促進
    解析プロジェクトはクラウド上で管理されるため、URLを送るだけで瞬時に設定や結果を共有できます。「設定が合っているか不安」なときも、詳しい人にURLを送ればすぐに確認してもらえます。チームや組織を超えたスムーズな連携が可能になり、孤独な解析作業から解放されます。

構造・流体・熱解析など、多岐にわたる物理現象をオールインワンで扱えるため、設計者が直面する様々な課題に対応可能です。まずは無料のアカウントで、次世代のCAE環境を体験してみてはいかがでしょうか。

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CAEは設計判断のために使い倒す

設計者CAEがうまくいかないとき、多くのエンジニアは「もっと勉強して詳しい知識をつけなければ」と考えがちです。しかし、実務において本当に必要なのは、高度な理論武装ではなく、「設計業務の中で回せる範囲」を見極めるバランス感覚です。

  • 詳細な製造モデルではなく、大胆に省略した解析モデルを使う。
  • 絶対的な保証値ではなく、設計変更の良し悪しを見る相対比較に徹する。
  • ツールや環境(クラウド等)の力を借りて、計算や共有の負荷を下げる。

ツールに使われて疲弊するのではなく、自分の設計判断を後押しする道具として割り切って使う。このスタンスこそが、課題山積の現場で設計者が成果を出し続けるための、現実的な解ではないでしょうか。