固有振動数(固有周波数)とは、ある物体が駆動力や減衰力を受けずに外乱を受けたときに励起される自由振動の振動数(周波数)のことです。このときの振動のパターンや形状が、その物体やシステムの振動モードであり、固有モードとして知られています。物体の質量や合成、固定や荷重の条件に応じて、固有モードは変化します。また、固有振動数は複数存在し、それぞれに応じた固有モードがあります。システムの基本的な動特性を評価する際に、固有振動数と固有モードは重要な項目です。

システムまたは物体は、その運動を駆動する外力に応じて、様々な振動数で振動します。

例)

  1. タービンは、タービンが取り付けられている発電機と駆動する流体に応じた速度で回転します。
  2. 飛行機の翼は、様々な周波数で上下に振動します。
  3. トラックの輸送用コンテナは、トラックが走行する道路状況に応じて、様々な周波数で振動します。

こういった外力によって強制的に生じる振動を強制振動といい、このときの振動数は、システムに加わる荷重条件によって変化しますが、外力の振動数がシステムの固有振動数と一致したとき、非常に大きな振動が生じます。これを共振といいます。具体的には共振とは、減衰のない物体の強制振動時の振動数が、その物体の固有振動数と等しくなることで発生する現象です。設計者にとって、構造物の固有振動数を理解することは、想定される使用状況・環境において共振が生じないようにするために非常に重要です。

固有振動数と共振のリスク

どのような構造物にも、振動振幅の応答が増加し続けるような荷重条件または周波数が存在します。このような振動応答の暴走につながる周波数は共振周波数と呼ばれ、システムの固有周波数と関連しています。減衰がないシステムの場合、共振周波数は固有振動数に等しくなります。

共振周波数で変動する荷重を受ける構造物は、時間の経過とともに振幅が増加するため、破壊に至る可能性があります。共振によって生じた重大な事故として、1940年のタコマ・ナローズ・ブリッジの崩壊が有名です。

この橋の構造は風荷重がかかる可能性を考慮しておらず、その結果、橋は固有振動数付近で風荷重によって大きな振動が励起されました。5ヵ月後、橋のサスペンション・システムがこの急激な振動で破損し、橋全体が崩壊しました。

振動と固有振動数の数学的モデル

理想的なばねと質点で構成された調和振動子は、振動運動をモデル化するのに適しています。調和振動の基本原理は、力がつり合う位置からの質点の変位に比例した復元力(F)を用いて表現されます。単純な調和振動子の方程式は次の通りです:

$$ F=-kx $$

ここで、kはN/mの単位で表されるばね定数、xは基準位置からの変位です。

基本的な調和振動子の一般的な例は、質量ばね系です。この系は、振動挙動をモデル化するための最も基本的な振動系です。質量がその平衡位置から変位すると、ばねは応答としてその変位量に比例した力を生じ、伸縮して質量を平衡位置付近に移動させようとします。

固有振動数を求めるには、固有値解析を行います。固有値解析とは、システムの剛性と質量分布からなる特性方程式を用いて、システムの動的特性を解く数学的操作です。単純な調和振動子の場合、システムの固有振動数を決定するための固有値解析は、線形代数の簡単な計算から行えます。

上記と同じ質量・ばね系を考えると、固有振動数(\(\omega_{n})\) 単位: rad/s)の公式は以下のようになります:

$$ \omega_{n} = \sqrt{\frac{k}{m}} $$

動的な体系には、摩擦、空気抵抗、アクチュエータなどの減衰効果があります。一般的にダンパーは、システムの固有振動数を下げながら、振動応答のピーク振幅を減少させる役割を果たします。これは、振動システムに生じる復元力の大きさを減少させることによって行われます。

ダンパーは、質点の速度に比例して復元力の大きさを減少させます。バネ-質量-ダンパーの動的システムでは、復元力(F)は以下の式でモデル化できます:

$$ F=-kx -cv $$

ここで 、cはダンパーの減衰係数で、[N・s/m]などの単位で表されます。 vは速度です。

減衰されたシステムの固有振動数は、減衰がないシステムに比べて低下します。これは、平衡位置へ向かう質点の加速度が減衰力により小さくなり、振動をより遅く、振動の回数より少なくするためです。システムの無次元数である減衰特性は、剛性、質量、減衰に関連付けられた、減衰比と呼ばれる比率で定義されます。減衰比(\(\zeta)\) )は次式で定義されます:

$$ \zeta = \frac{c}{2\sqrt{km}} $$

減衰比を用いると、平衡位置からずれた後、動的システムの周波数応答がどのようになるかを簡単に知ることができます。減衰比が1より小さい場合は、不足減衰あるいは減衰振動と呼ばれ、平衡位置を中心とした振動が生じます。減衰振動するシステムの固有振動数は、減衰比に基づいて固有振動数(\(\omega_{n}\)) からシフトします。減衰を考慮した固有振動数 (\(\omega_{d}\)) は、以下の式で求められます:

$$ \omega_{d} = \omega_{n} \sqrt{1-\zeta^2} $$

減衰比に基づいて固有振動数がシフトしたときの応答は、下図のようになります。以下のプロットは、強制振動を受けたシステムの定常状態の振幅の応答の強度を表し、横軸は加振振動数と減衰のないときの固有振動数の比 \(\omega / \omega_{d} \) を表しています。 ピーク振幅時の周波数はそれぞれの場合における共振周波数であり、固有振動数に等しくなります。減衰比が大きくなるにつれて、振幅の応答がピークとなる周波数は低くなるようシフトし、共振周波数(=固有振動数)が低下していることが分かります。

図3: 強制振動時の減衰振動するシステムの振幅応答プロット。横軸は非減衰時の固有振動数に対する加振振動数の比(ω/ωn)、縦軸は強制振動の振幅に対する応答振幅の比。[3]

設計への適用

上記の固有振動数の考え方は、より複雑なシステムにも適用できます。

システムの固有振動数をシフトさせるには、システムの剛性を変えるか、質量を変えるか、減衰する機構を設けます。システムの剛性は、その形状、用いる材料と材料の配置、サイズによって決まります。

  • 剛性が増加すると、固有振動数は高くなります。
  • 質量が増加すると、固有振動数は低くなります。
  • 減衰が増加すると、固有振動数は低くなります。

固有振動数を求めるためのシミュレーション

複雑なシステムの固有振動数は、シミュレーションによって求めることができます。有限要素解析(FEM)を使用すると、複雑な形状を数千または数百万の基本的な線形または非線形な計算モデルに離散化し、部品/アセンブリ全体の固有振動数、共振周波数、固有モードなどの動的な特性を求められます。

SimScaleの構造解析機能では、固有振動数と固有モードを求めるFrequencyソルバーをご利用いただけます。設計者は、実際の3D設計データから固有振動数と固有モードを求めることができ、現状設計案での共振するリスクの評価や、固有モードからどう補強・改修すれば固有振動数を上げて共振を回避できるかといった検討をウェブブラウザから行っていただけます。

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さらに、SimScaleでは指定した荷重等の条件や周波数における部品/アセンブリの変位や応力を定量的に評価できる周波数応答解析(Harmonicソルバー)もご利用いただけます。

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構造物の固有モード
バッテリーセルの振動試験

主要な用語集

固有振動数とは?

固有振動数とは、システムが平衡状態から初期外乱を受けた後に定常振動する振動数(周波数)のことです。

共振周波数とは?

共振周波数は、システムが極端に大きく振動する(共振する)ときの周波数です。減衰がなければ固有振動数と等しくなります。

復元力とは?

復元力とは、システムで力が釣り合う平衡位置に戻そうと働く力のことです。

調和振動子とは?

調和振動子系とは、質点が平衡位置から変位するとその変位に比例する理想的な復元力を示し、外力によって駆動されていないときは、一定の正弦波パターンで動く系のことです。

剛性とは何ですか?

調和振動子系において剛性とは、変位に対して生じる復元力と、質点の変位の比です。

減衰係数とは?

減衰係数とは、減衰がある調和振動子系の復元力に対するダンパーの寄与と質点の速度の比です。

固有値解析とは?

固有値解析とは、システムの固有振動数とそのときの固有モードを求めるための数値解析手法です。

参考

  1. Svjo, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
  2. User:Evil_saltine, Public domain, via Wikimedia Commons
  3. Geek3, CC BY 3.0, via Wikimedia Commons

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