マイクロチャンネルについて

マイクロチャンネルはその名の通り、マイクロ (μm: ミクロン)スケールの流路を指します。通常の直径の大きな流路の場合、内部を流れる流体に対して重力の影響が支配的となるため、流体の表面張力は無視することができます。一方で、マイクロチャンネルを流れる流体は、体積に対して表面積が大きいため、表面張力の影響が顕著に現れます。そのため、通常の流路とは異なる流動を見せたり、流路壁面の濡れ性の影響が現れます。

マイクロチャンネル内気液二相流の特異な流れ

マイクロチャンネルの応用例

マイクロチャンネルは医療や製薬分野での応用が盛んです。内部の流体の体積当たりの表面積が大きいことから、高い混合効率や高い熱伝導効率を有します。これらにより、化学反応を効率的に行うことができます。従来、研究室で行われていたような混合、反応、分離、検出をすべてマイクロチャンネル内で完結させるLab-on-chip (ラボオンチップ)の研究も進んでいます。身近な例ではコロナ禍で耳にしたPCR検査でも、唾液と触媒の混合と、DNA増幅のためのPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)の加熱・冷却を繰り返すプロセスで用いられています。

1. 解析設定

SimScaleでVOF法を用いた混相流解析を行います。マイクロチャンネル内を流れる気液二相流は気泡と液スラグが交互に流れる特異な流動を示します。ここではT字混合部で液相と気相が混合されるとします。

0.5mm正方形断面のマイクロチャンネル

設定条件は、液相を水、気相を窒素とします。気相の流量を0.1 m/sで固定し、液相の流量を0.1, 0.2, 0.3 m/sの3条件としました。流動に影響を与えると予想される流路壁面の濡れ性を静的接触角で指定します。今回はアクリルなどの一般的な材料の接触角60°と、親水性(濡れやすい)10°、疎水性(濡れにくい)120°の3条件としました。合計で9条件となります。

SimScaleはクラウドのリソースを使うことができるため、今回の9条件のパラメトリックスタディも順番を待つことなく、9つ一気に計算することができます。一般的なノートPCから設計検討を高速に行うことができます。

2. 解析結果

接触角60°

一般的な材料の接触角60°の結果を示します。液相の流速が速いほど、気相を剪断する力が強くなるため、気相を剪断するのに要する時間が減少し、生成される気泡の長さが小さくなることが分かります。

接触角60°, 気相0.1m/s, 液相0.1m/s
接触角60°, 気相0.1m/s, 液相0.2m/s
接触角60°, 気相0.1m/s, 液相0.3m/s

接触角10° (親水性)

続いて、親水性の接触角10°の結果を示します。おおよその挙動は接触角60°の時と変わりませんが、同じ流速でも接触角10°の方が気泡の長さが小さくなっていることが分かります。

接触角10°, 気相0.1m/s, 液相0.1m/s
接触角10°, 気相0.1m/s, 液相0.2m/s
接触角10°, 気相0.1m/s, 液相0.3m/s

接触角120° (疎水性)

最後に疎水性の接触角120°の結果を示します。上記2つの接触角と異なり、気泡が生成されず、気相が壁面に集中し、その内部を液相が流れていることが分かります。これは壁面が濡れにくいため、液相よりも気相が集中しやすくなった結果と考えられます。

接触角120°, 気相0.1m/s, 液相0.1m/s
接触角120°, 気相0.1m/s, 液相0.2m/s
接触角120°, 気相0.1m/s, 液相0.3m/s

3. 結果の考察

ここではさらに結果を深堀して、気泡の生成過程メカニズムと接触角によって生成される気泡長さが異なる理由を考察します。

気泡の生成過程

気泡がどのように生成されるのかを把握するために、接触角10°, 気相0.1m/s, 液相0.2m/sの流路中央の切断面における圧力コンターを確認します。

接触角10°, 気相0.1m/s, 液相0.2m/sの流路中央断面における圧力コンターの時間変化

次の画像では気泡の生成過程を静止画で切り取っています。

気相が主流路に進展する
気相が流入面から反対の壁まで進展し、液相の流れをせき止める
せき止められた液相の上流側の圧力が大きくなり、気相が剪断される

圧力を二次元上に表示することで、気泡の生成過程のメカニズムを捉えることができました。このように現象を可視化し、現象を把握することができることがシミュレーションの強みです。

接触角と生成された気泡の長さ

次に示すのは、せん断部付近の様子を別の角度から拡大した画像です。壁面が濡れやすい接触角10°の場合は、気泡の周りを囲むように流路の四隅に液相が流れることができ、気相をピンチする力を効率的にかけることができます。その結果、せん断が速い周期で進み、気泡の長さが小さくなると考えられます。

接触角60°, 気相0.1m/s, 液相0.2m/s
接触角10°, 気相0.1m/s, 液相0.2m/s

SimScaleは無料でアカウントを作ってシミュレーションをお試しいただくことができます(※今回ご紹介した混相流の解析は無料アカウントではご実施いただけません)。