1. はじめに

この記事について

この記事ではSimScaleを用いて、ガラス張りの大型ショッピングモールの温熱環境解析の事例を紹介します。対象となる建築物のモデルは、以下の通りです。建築物の屋根のドーム部分と側面の曲面部分がガラス張りの天窓(トップライト)になっています。

ガラス建築物について

近年、構造技術の進歩とともに、ガラス建築物は増加しています。日本で有名な建築物の例として、国立新美術館(東京都)や富山市立ガラス美術館(富山県)が挙げられます。

国立新美術館 (東京都)
富山市立ガラス美術館 (富山県)

ガラス建築物は、モダンで洗練されたデザインかつ自然光を最大限に利用することができます。一方で、植物園の温室のように内部の温度が高くなる温熱環境の課題が発生します。透明であることから、日射が直接内部に入り込み、室内温度が上昇しやすくなります。また、断熱性能が低いことから、夏は暑く、冬は寒くなりやすくなります。このような理由から、温熱環境の検討と対策が重要となります。シミュレーションでは、すぐに結果を確認することができ、物理現象に基づいた設計の改善を可能とします。

SimScaleが選ばれる理由

室内温熱環境解析のソフトウェアとしてSimScaleが選ばれる理由は大きく2つあります。

1. 完全クラウド型であり導入・メンテナンスコストが低い

SimScaleはWebアプリケーションとして提供されている完全クラウドのCAEプラットフォームです。解析用の高価なハードウェアを準備する必要もなく、業務でお使いのような一般的なノートPCからすぐにハイスペックなシミュレーションをご実施いただけます。ローカルソフトウェアのダウンロードや、VPN・リモートデスクトップなどの環境構築も全く必要なく、すぐにお使いいただくことができます。
クラウド環境は、一般にオンプレミス環境よりも安全とされているAWSを用いており、オンプレミス環境で発生するセキュリティへの対応も不要となります。またいつでも急速に発展する最新環境にアクセスするためアップデートといった煩わしいメンテナンスも必要ありません。

2. 幅広い建築分野の課題を解析できる

室内の解析では、気流、温度、湿度、ふく射の計算が可能で、PMV・PPDといった快適性を評価することができます。また、場所・日時を考慮した指向性のある日射の考慮や空気の滞留時間の解析をすることができます。屋外に関しても、ビル風の影響を解析する風環境解析に特化し、簡単なワークフローで日本の基準(村上法、風工学研究所法)を評価するソルバーや、乱流を精密に解くことが求められる風荷重の計算ができます。このように建築物の内部と外部幅広く対応することができます。特に、建築分野の解析は3Dモデルが大規模になることから計算も大規模になるため、クラウドリソースを使用するSimScaleは大きな効果を生みます。

2. 計算条件

秋を想定して外気温は21℃としています。そのほかの計算条件を以下に示します。

ガラス面: 厚さ240mm、熱伝導率0.029W/(m・K)、日射透過。

自然換気面: 自然風流出入、気温21℃。

空調機器面: 速度流入、体積流量各面0.77m3/s、気温15℃。

エアーカーテン面: 速度流入、体積流量3m3/s、気温18℃。

日射は、建物の所在地と日時を指定することで指定できます。所在地はGoogle Mapのインターフェースから指定できます。

3. 結果の確認

気流の確認

以下の動画は流跡線の結果です。館内にまんべんなく気流が発生していることが分かります。

日射受熱量の確認

ガラス面から日射が入り、直接照り付ける部分の受熱量が大きいことが分かります。

温度分布の確認

ここでは人体に対する温熱環境の評価指標として、作用温度を評価します。前述の日射受熱量が大きい部分が特に温度が高いことが分かります。

1階
2階
3階

PMV(快適性)の確認

快適性の評価指標としてPMV (Predicted Mean Vote: 予想平均温冷感申告)を導入します。これは気温だけではなく人間の感覚量から温冷感の快適性を評価するもので、気温、湿度、風速、ふく射、代謝量、着衣量の6要素によって決定されます。数値が0のときが最も快適で、-3に近いほど寒く、3に近いほど熱く感じます。ISO 7730:2005では、-0.5 < PMV < 0.5 の間を快適な領域として推奨しています。

以下にPMVの結果を示します。同じフロア内でも快適性に差がある様子が分かります。特に、日射受熱量が多い部分のコンターは赤色に近く、暑くて不快な部分になっています。このような部分は、人が通らないようにオブジェや植物を配置する工夫などが必要になります。

1階
2階
3階

4. おわりに

技術の進歩とともにガラスを用いた建築物が発達しています。しかし、このような建築物は複雑な温熱環境の課題が発生してしまいます。モダンなデザインと快適な温熱空間を実現するためには、設計の初期段階から温熱環境を検証することが効果的です。SimScaleは無料で始めることができます。以下のボタンをクリックしてシミュレーションによる温熱環境のシミュレーションをご自身でお確かめ下さい。今回ご紹介したシミュレーションも公開プロジェクトとしてご覧いただけます。

本記事の事例もPublic Projectsにて公開されています