1. はじめに

この記事について

この記事では弊社が取り扱っている現場3Dデータ取得ソリューションのNavVisで取得した既存の工場の3Dデータを用いて、SimScaleで室内温熱環境解析をした事例をご紹介いたします。

工場では、住宅と異なり断熱設備が十分に整っていないことが多く、外気の影響を受けやすい上に、広い空間全体に空調を設置することが難しい場合があります。そのため、外気温や機械の発熱によって室内の温度が大きく変動し、作業環境の快適性や生産効率に悪影響を及ぼします。特に、空調が使用できない工場では、換気や開口部の配置、屋根や壁からの熱の影響を考慮した温熱管理が不可欠です。温熱シミュレーションを活用すれば、こうした課題を定量的に分析し、最適な換気方法や熱対策を検討することが可能になります。

NavVisで取得したデータと温熱シミュレーションの結果

NavVisについて

NavVisは歩行しながら3Dデータを計測できる画期的なソリューションです。三脚式の据置型(TLS)と比べて10倍以上の高速化を実現します。詳しくは以下のページをご覧ください。

https://solutions.kke.co.jp/navvis/

NavVisでのデータ計測後、シミュレーションを実施するために点群データをIGESデータに変換します。

SimScaleが選ばれる理由

室内温熱環境解析のソフトウェアとしてSimScaleが選ばれる理由は大きく2つあります。

1. 完全クラウド型!すぐに、安価に、シミュレーションが可能

SimScaleはWebアプリケーションとして提供されている完全クラウドのCAEプラットフォームです。解析用の高価なハードウェアを準備する必要もなく、業務でお使いのような一般的なノートPCからすぐにハイスペックなシミュレーションをご実施いただけます。ローカルソフトウェアのダウンロードや、VPN・リモートデスクトップなどの環境構築も全く必要なく、すぐにお使いいただくことができます。
クラウド環境は、一般にオンプレミス環境よりも安全とされているAWSを用いており、オンプレミス環境で発生するセキュリティへの対応も不要となります。またいつでも急速に発展する最新環境にアクセスするためアップデートといった煩わしいメンテナンスも必要ありません。

2. 幅広い建築分野の課題を解析できる

室内の解析では、気流、温度、湿度、ふく射の計算が可能で、PMV (予測平均温冷感申告)・PPD (予測不満足者率)といった快適性を評価することができます。また、場所・日時を考慮した指向性のある日射の考慮や空気の滞留時間の解析をすることができます。屋外に関しても、ビル風の影響を解析する風環境解析に特化し、簡単なワークフローで日本の基準(村上法、風工学研究所法)を評価するソルバーや、乱流を精密に解くことが求められる風荷重の計算ができます。このように建築物の内部と外部幅広く対応することができます。特に、建築分野の解析は3Dモデルが大規模になることから計算も大規模になるため、クラウドリソースを使用するSimScaleは大きな効果を生みます。

2. 3つのドアを開放した解析

今回は埋め込み境界法(IBM)を用いて解析を実施します。この機能は数値発散などシミュレーションに悪影響を及ぼす小さな領域のクリーンアップが不要で、すぐにメッシュを作成し解析する強力な機能です。このソルバーを用いることで、シミュレーションのワークフローで最も時間を要するCADの調整が不要になり、検討を加速させます。埋め込み境界法について詳しくは以下のページをご覧ください。

CADの簡素化が不要!埋め込み境界法 (IBM) による Raspberry Pi 詳細モデルの熱流体解析

現在、多くの熱流体解析の商用ソルバーで採用されている有限体積法は、ボディフィットメッシュと呼ばれるメッシュを作成します。ボディフィットメッシュは固体側の形状を…

日射は、建物の所在地と日時を指定することで指定できます。所在地はGoogle Mapのインターフェースから指定できます。

日射の設定 Google Mapのインターフェースから建物のある場所を選択すると、自動的に日射方向を取得します。

工場内の設備から発熱することを想定します。下図で赤くハイライトしているボリュームが、稼働により発熱するとして表面温度固定で50℃としています。

また、今回は全てのドアを開け放ち、自然換気が行われるようにしています。秋口の天候を想定して、初期温度と流入温度を19.85℃と設定しています。

以下に示すのは、工場内の温度分布の結果です。ここで表示されているボリュームは流体領域(固体のない空間)を表し、工場内の空気を3次元的に可視化したものです。計算の結果、この工場内の平均温度は33.61℃となりました。外気温が19.85℃であるため、工場内の温度は約13℃も高くなっています。

この温度上昇の要因として、内部の発熱体からの熱放出や日射の影響が挙げられます。これらの熱が工場内に蓄積され、適切に放熱されないことで、温度が上昇し続ける状態になっています。

温度分布

さらに、屋根面の温度分布を確認すると、最大で約10℃の差があることが分かります。この温度差が生じる理由を考察するために、半透明表示や切断面表示を用いた可視化を行い、その結果を下図に示します。

解析の結果、屋根面の温度が高い領域の直下には発熱体が存在し、そこから発生した暖かい空気が上昇し、直接屋根面を加熱していることが確認できます。

温度分布 半透明&切断面表示

次に、風の流れを可視化します。ベクトルや流線を用いることで、風の流れを視覚的に捉えることができます。この可視化によって、空気の滞留しやすい箇所や温度が高くなりやすい領域を特定し、適切な対策を講じるための指標とすることが可能です。換気窓や機械換気装置の最適配置に活用することができます。

風速分布の切断面表示とベクトル

3. 1つのドアを開放した解析

続いて、ドアを1つだけ開放した場合の解析を行います。開口部が制限されることで換気効率が低下し、温度が上昇することが予想されますが、具体的にどの程度の差が生じるのでしょうか。

以下では、温度が34℃以上の領域を3次元的に可視化した等値ボリュームの結果を比較します。ドアを1つだけ開放した場合は換気効率が低下し、34℃以上の高温領域が拡大していることが確認できます。

1つのドアを開放
3つのドアを開放

さらに、空間全体の平均温度は、1つのドアを開放した時が33.61℃、3つのドアを開放した時が31.49℃と、2℃以上の温度差が生じました。ドアを開放する数が変わるだけで、これほど大きな違いが生まれます。
夏場には、屋外駐車場で締め切った車内の温度上昇による事故が多発していますが、わずかな環境の違いで温度は劇的に変化します。シミュレーションを活用することで、温度に影響する要因を特定し、より直接的で効果的な対策を講じることが可能です。

4. おわりに

本解析を通じて、工場内の換気効率が開口部の数によって大きく左右されることが明らかになりました。特に、ドアの開放が制限されると、換気が不十分となり、高温領域が拡大する傾向が確認されました。このような温熱環境の課題を解決するには、シミュレーションを活用し、適切な換気設計や熱対策を講じることが重要です。工場の温熱環境を科学的に理解し、効率的な換気計画を立てることで、快適で安全な作業環境の実現につなげることが可能です。
NavVisとSimScaleの高い親和性を活用することで、既存建物のより現実的なシミュレーションを、高速に実施することが可能です。