Ingenium Aero Consultancy は、F1 (フォーミュラ1) 業界での豊富な経験を持つ、エンジニアリング設計および開発の専門企業です。同社は 空力解析、熱解析、そしてCFD (数値流体力学) を中心とした高度な技術に強みを持ち、特に パワートレインのパッケージング に重点的に取り組んできました。これまで複数のクライアントと協業し、バッテリー電気駆動 (BEV) アプリケーションの設計・性能最適化 を支援しています。

Saietta Group Plc (Saietta) は、電動パワートレイン (eDrive) ソリューションの世界的リーディングカンパニーであり、Ingenium Aero Consultancyと協力して、革新的な統合型eDriveシステムの開発を進めています。Saiettaは、独自の AFT (Axial Flux Technology: アキシャルフラックスモーター) およびRFT (Radial Flux Technology:ラジアルフラックスモーター) を含む画期的な電動モーター技術を開発しています。

これらは、同社の パワーエレクトロニクス、パワートレイン制御、アクスル、トランスミッション と組み合わせることで、高効率な完全電動パワートレイン (eDrive) ソリューション を構築できます。

複雑なエンジニアリング分野における空気力学 (空力) 解析は、近年、初期コンセプト設計の段階から欠かせないプロセスとなっています。空力設計は、乗員快適性の向上、空気抵抗 (ドラッグ) の低減による燃費向上、そして車体の安定性強化に大きく貢献します。近年は、計算技術・ハードウェアの進歩や風洞試験技術の発展により、複雑な流れ場の挙動を短時間で解析できる空力シミュレーションがより身近なものになっています。

Saiettaは、新しい電動パワートレインの熱マネジメントに課題を抱えており、Ingenium Aero Consultancyへ支援を依頼しました。元の設計では、部品の温度を規定範囲内に適切に冷却できず、耐久性向上と軽量化・コスト削減を同時に実現するための包括的な解析が求められていました。両者は協力して、モーターの性能を2輪・3輪・4輪の各アプリケーションで評価し、CFDを用いて空気抵抗・冷却性能の予測を実施。さらに、実走行テストによる検証も行い、解析結果の信頼性を高めました。

Peter Coysh氏は、McLaren、Mercedes、Toro RossoといったF1チームでリード・エアロダイナミシストを務めた経歴を持ち、20年以上にわたり空力設計、CFD、風洞試験、パワートレイン統合設計、車両データ解析に携わってきました。また、ヘリコプターや小型ボート、さまざまなロード車両における空力および熱バランス設計も手掛けています。彼は、クラウドネイティブ型CAEプラットフォームである SimScale を活用し、電気自動車の空力・熱特性、パワートレイン、バッテリー、トランスミッションなどの性能解析・最適化を行っています。

SimScaleを使ってPeter氏が最初に取り組んだプロジェクトのひとつは、ライダーを含む電動バイクのCFD解析でした。これは、バイクとライダーの物理的条件を考慮した上で空力性能を評価し、メカニカルロスの推定精度向上や、モデル化の妥当性確認を行うことが目的でした。SimScaleでの解析結果と実走行テストの結果を比較したところ、誤差は1%未満と非常に高い一致度を示しました。これによりSimScaleのアプローチが有効であることが実証され、追加の高額な風洞試験やダイナモ試験の大幅削減につながりました。


eDriveの電動モーターとドライブトレインは、電動バイク (e-bike) に使用されています。
電動バイク周辺の風速分布をCFDで解析しました。シミュレーション結果は実走行テストと比較され、空気抵抗(ドラッグ効率)は双方で1%以内の誤差に収まりました。このことから解析手法の妥当性が確認され、高額な風洞試験を大幅に削減することが可能になりました。

革新的なアキシャルフラックス水冷モーターの開発

Peter氏はSaiettaとのプロジェクトにおいて、AFT140 アキシャルフラックス水冷モーターおよびe-axleの開発全体に携わりました。その範囲は、モーターおよびインバーター冷却の熱設計・開発から、構造解析 (FEA) 、そして最終的な設計承認に至るまで、コンセプト段階から顧客車両への初回出荷までを含みます。

試験対象となったコンポーネントは:

  • モーター
  • インバーター
  • アクスル
  • ギアボックス

の各ユニット単体で、それぞれの性能と信頼性を個別に評価しました。

Peterと彼のチームは高度なCATIAユーザーであり、複雑なCADモデルをSTEP形式でSimScaleへインポートする作業は非常にスムーズでした。これにより、数分以内に有用な熱解析・構造解析結果を取得できるようになりました。モーターは運転中に多様な負荷条件にさらされるため、FEAによる構造リスク予測が不可欠でした。さらに、SimScale上でモーターローターの振動・共振リスクを評価する周波数応答解析も実施。これは、NVH (騒音・振動・ハーシュネス) の改善部品耐久性の確保において、非常に重要な工程でした。


Saietta製 AFT140i アキシャルフラックス水冷モーターおよびeアキシャル

SimScaleを用いたAFT140アキシャルフラックス水冷モーターおよびeアキシャルの構造解析

モーターは高温に達する可能性があり、安全な動作温度範囲に収めるために適切な冷却が不可欠です。そのため、冷却システムの熱性能評価と、部品を損傷する恐れのある熱膨張の影響を把握するために、CHT(連成熱流体解析)および熱-機械連成解析が集中的に用いられました。下図は、モーターの円周部セグメントを対象とした熱解析結果で、最高温度の予測さまざまな運転条件・外気条件における温度分布を示しています。


熱解析に用いられたAFT140モーター。AFT140モーターの一部セグメントを対象に、冷却性能を最適化するための熱解析を実施しています。モーターは対称性を持つため、セグメントモデルを用いることで計算リソースと解析時間を大幅に削減できます。

まとめ

Peterと彼のチームは、Saiettaが革新的なコンポーネントを開発し、それらを多様な車両へ統合するために、SimScaleを幅広く活用しています。

1つのCADモデルを基に、熱解析熱—機械連成解析 (Thermo-mechanical) CFD解析構造解析および周波数応答解析といった複数種類の解析を単一プラットフォーム上で実行できる点が大きなメリットとなっています。

Saiettaは現在、AFT140モーターおよびeDriveソリューションを量産化しており、Ingenium Aero Consultancyは、クラス最高レベルの水冷AFTモーター、空冷RFTモーター、インバーター、各種ドライブトレインソリューションの開発を複数のOEM向けに支援しています。

Peter Coysh
Aero-thermal Engineer at Ingenium Aero Consultancy

Using legacy tools we would have had to purchase several software packages and locally transfer/format CAD files continuously whilst being fixed to a workstation. Using the cloud-native features in SimScale, and the collaboration tools, we at Ingenium Aero Consultancy have access to a growing feature and physics set whilst accessing the software using a simple login from a web browser.

従来のツールを使う場合、複数のソフトウェアを購入し、CADファイルをローカル環境で都度変換・再フォーマットしながら、ワークステーションに固定されて作業する必要がありました。一方、SimScaleのクラウドネイティブな機能とコラボレーションツールを利用することで、私たち Ingenium Aero Consultancy は、Webブラウザからログインするだけで、拡張し続ける解析機能と物理モデルにアクセスできるようになりました。

本記事は、https://www.simscale.com/customers/ingenium-aero-consultancy-mobility-solutions-for-the-future/の抄訳です。