IH調理器について

IH調理器は燃焼を伴わず、安全かつ環境にやさしい加熱方式です。IHはInduction Heating (誘導加熱)の頭文字であり、IH調理器内に配置されたコイルに、電流が流れることによって発生する電磁界現象を利用します。IH調理器の動作原理は次の通りです。

I. IH調理器内のサーチコイルに電流が流れ磁界が発生

調理器具内部のサーチコイルに高周波の交流電流を流すと、向きと強度が変化する強力な磁界が発生します。

II. 磁界が調理器具内に渦電流を誘起 (電磁誘導)

磁界の中に導電性の物質を配置すると、電磁誘導により電流が生じます。このときの電流を特に渦電流と呼びます。IH調理器対応となっている鍋やフライパンは、この渦電流が強く発生する物質となっています。このような物質を「磁性体」と呼び、主に鉄やステンレスが採用されることが多いです。アルミニウムや銅などは「非磁性体」であり、発生する渦電流が弱いため、IH調理器で用いることができません。磁性体か非磁性体かは、磁石がくっつくかどうかで判定できます。磁石がくっつく鍋やフライパンは磁性体であり、IH調理器で使用できると見立てを立てることができます。

iPhoneのボディ変更

iPhone 8からQi (チー)と呼ばれる規格で無線充電が可能になりました。この充電方式はIH調理器と同様の原理を用いており、iPhone内の受電コイルに電流を誘導することで充電を行います。無線充電が行えないiPhone 7までのボディ背面には、アルミニウムが採用されていました。アルミニウムは非磁性体ですが、導電性が高いため、変動する磁界にさらされると自身に弱い渦電流が発生します。この渦電流が無駄なエネルギー消費となり、受電コイルに誘導される電流が弱くなってしまうため、効率的な無線充電が難しくなります。そこで、iPhone 8からは磁界を透過し、渦電流が発生しないガラスが背面に採用されました。IH調理器のトッププレートにガラスが採用されていることが多いのも、同様の理由です。

III. 渦電流が調理器具内部を流れることで発熱 (ジュール熱)

渦電流が調理器具内部を流れることで、金属の電気抵抗によるジュール熱が発生します。調理器具が自己発熱することから、効率的に加熱することができます。

表皮効果

コイルに流れる電流を高周波の交流電流とするのは「表皮効果」を狙うためです。表皮効果は、周波数が高いほど電流が表面へ集中する現象です。IH調理器の加熱の過程では次のように影響します。

① IH調理器内のサーチコイルを高周波で交流電流が流れる
② 高周波の磁界の変化が発生する
③ 調理器具内で高周波の渦電流が発生する
④ 表皮効果により調理器具の表面に渦電流が集中する
⑤ 集中した渦電流により調理器具表面に大きなジュール熱が発生する

このように表皮効果を活用することで、効率的に加熱を行うことができます。

1. 解析設定

SimScaleで電磁界解析を行います。物性値の設定は以下の画像に示す通りです。今回は解析対象が面対象なので、半分のモデルで解析をします。

IH調理器 電磁シールド (アルミニウム)
IH調理器トッププレート (FR4ガラス)
IH調理器 フェライトコア (フェライト)
IH調理器 サーチコイル (銅)
鍋 (鉄)

サーチコイルは3次元形状では単純形状に簡素化されています。計算上では、直径2mmのワイヤが20周巻かれているものとして計算します。印加する電流は24Aとし、青い面から流入し、赤い面から流出します。周波数は3,000Hzです。

形状が簡素化されたコイルに印加する電流の設定

2. 解析結果

解析結果の図を示します。次の画像はサーチコイルに交流電流が流れることによって生じる磁界です。

磁界のコンター (固体周りに媒質となる空気を表示しています)

続いて、電磁誘導によって生じる渦電流を確認するために電流密度を表示します。鍋の底面に電流が発生している様子が分かります。

最後に鍋の中を渦電流が流れることにより発生するジュール熱を表示します。鍋が過熱される様子が確認できます。

発生するジュール熱のコンター
鍋の底面に発生するジュール熱のコンター

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