Emil Motorsは、電気自動車業界が抱えるレアアース依存という構造的課題に挑むため、2023年にドイツ・ヘルスブルックで設立されました。レアアースに頼らずに高出力・高効率を実現するという難題に正面から取り組み、革新的な非同期モーターを開発しています。レアアースを一切使用しない次世代EVモーターの実用化を目指しています。電動化の未来を支える新たな選択肢として、持続可能なモビリティ社会の実現に貢献することを使命としています。
チャレンジ
- 迅速な設計プロセスを推進するための、新しい誘導モーター設計のタイムリーなマルチフィジックスモデリング
- 高速運転時のデュアルローターアセンブリの構造的完全性を確保
- ハウジングやシャフトなどの構造部品に磁束が漏れることで発生する漂遊損失を特定
- 翼端速度が800km/hに近づくとケーシング内部の空気抵抗によって発生する大きな風損失を低減
- スタートアップ企業のため、限られた予算で迅速かつ複雑なマルチフィジックス解析を求められる
結果
- CHTシミューレションにより特許取得済みの冷却システムを迅速に開発し、コイルの温度をを100℃未満に保ち、高いトルクを継続的に実現
- 堅牢なローターアセンブリを開発し、ステーターからの安全な偏向を検証
- 漂遊損失を視覚化してハウジングの形状と材料を最適化し、内部発熱の影響を低減
- 空力シミュレーションにより隙間を最適化し、内部抵抗の低減
- 従来のシミュレーションと比較して、約50%のコスト削減を達成、開発時間を半減
電動モビリティへの移行は、重大なボトルネックに直面しています。それは、現在のEV (電気自動車) に採用されている同期ラジアルフラックスモーター用の永久磁石を製造するために必要なレアアース材料への依存です。サプライチェーンの不安定性や採掘に伴う環境負荷があるにもかかわらず、現代のEVに求められるモーターのトルクおよび効率要件を満たすためには永久磁石が不可欠であると考えられています。これは、非同期ラジアルフラックス (誘導) モーターでは実現できない性能だとされてきました。
2023年に設立され、ドイツ・ヘルスブルックに本社を構えるEmil Motorsは、この状況を異なる視点から捉えています。同社は、EV業界が抱えるレアアース材料への重大な依存を解消するという明確な使命のもとに設立されました。同社の革新的なモーター設計は、アキシャルフラックス構成を採用することで、従来の誘導モーター技術を進化させ、従来型の永久磁石機に匹敵する出力密度を実現しようとしています。
共同創業者兼CEOのMaximilian Güttingerは、シミュレーション主導のエンジニアリング戦略を推進しています。Emil Motorsを創業する以前、彼はミュンヘン工科大学 (TUM) で機械工学を学んでいました。自動車市場が急速に変化し、持続可能なパワートレインへの需要が高まる中、その即時的な機会を見抜いたMaximilianと共同創業者のJohannes Unholdは、大学を中退し、この事業に専念するという大胆な決断を下しました。

マルチフィジックス解析の挑戦
Emil Motorsのレアアース不要の非同期ラジアルフラックスモーター (SAM) は、永久磁石モーターに代わる、持続可能かつコスト効率の高い“ドロップイン”型の代替ソリューションです。デュアルローター・センターステーター構成とアルミニウム製誘導ケージを採用することで、SAMはわずか35kgのパッケージで330kWの出力と450Nmのトルクを実現しています。そのすべてが、レアアースを一切使用せずに達成されています。
非同期ラジアルフラックスモーターを最高性能の永久磁石モーターと競合できるレベルに引き上げるためには、誘導技術が本質的に抱える熱的・機械的・電磁的な不利を克服する必要がありました。Maximilianは次のように説明します。「このような製品をゼロから開発するには、設計空間に存在するあらゆる可能性を探るために、複数の物理領域にわたる膨大なシミュレーション作業が必要です。」
Emil Motorsは、Onshape (クラウドCADソフト) でのCADワークフローとシームレスに統合できるプロフェッショナル向けのソリューションを必要としていました。その結果、SimScaleの電動モーター設計ソフトウェアを採用するに至りました。クラウドネイティブなアーキテクチャにより、Onshapeからジオメトリを直接インポートし、Webブラウザ上で熱・構造・流体・電磁界の各領域にわたる大規模な並列シミュレーションを実行することが可能になりました。「スピード、精度、使いやすさ、そしてコスト効率を一つのパッケージで実現できるソフトウェアは、他にはなかなかありません」とMaximilianは述べています。「クラウドベースであるSimScaleは作業を容易にし、インターフェースや操作性も従来のシミュレーションソフトウェアの多くより優れています。」

Maximilian Güttinger
CEO & Co-founder, Emil Motors
One significant advantage of SimScale is the ease of use, especially with Onshape. The CAD can be adapted quickly and ideas can be explored with great detail at an early stage. It takes the legwork out of design exploration and optimization.
SimScaleの大きな利点の一つは、特にOnshapeとの連携における使いやすさです。CADデータを迅速に修正できるため、設計初期段階からアイデアを高い解像度で詳細に検証することが可能になります。これにより、設計探索や最適化に伴う手間のかかる作業を大幅に削減できます。
熱解析: 特許取得済み直接オイル冷却システム
開発の初期段階において、開発チームは標準的な外部冷却方式ではステーター内で発生するジュール熱を十分に処理できないのではないかと仮説を立てました。特に、デュアルローター構造によりアクセスが制限されることが課題でした。SimScaleの共役熱伝達 (CHT) 解析機能を活用し、彼らは革新的な「直接オイル冷却」コンセプトを開発しました。この設計では、ステーターを数十の個別セグメントに分割し、それぞれに統合された流路を設けています。そこにトランスミッションオイルを流し、絶縁された銅コイルに直接接触させる構造となっています。
開発チームは3次元熱流体解析を実施し、各冷却チャネル間の油圧バランスを最適化することで、ステーター全体にわたる均一な冷却を実現しました。このプロセスでは多くのトレードオフへの対応が求められたとMaximilianは振り返ります。「重要なポイントは、鉄心内部の流路寸法の設計でした。これにより、流体がローターの片側から反対側へ流れることが可能になります。流路を広げれば冷却性能は向上しますが、その分、強磁性材料を削ることになり、ステーターコアの効率は低下してしまいます。」

その結果は画期的なものでした。シミュレーションにより、モーターはピークトルクの50% (約200Nm) で連続運転しても、コイル温度を100℃未満に維持できることが予測されました。これは、業界標準である140℃と比較して実に40℃もの大幅な低減を意味します。その後の実機試験でも、これらの熱予測は99%の精度で一致することが確認されました。
構造解析: 16,000RPMにおけるローターダイナミクスの制御
レアアース磁石による強力な磁束を使用しない分、SAMの設計では同等の出力を得るためにより高い回転数が求められます。目標である16,000RPMに到達すると、直径300mmのローターには極めて大きな遠心力が作用します。さらに、アキシャルフラックスマシンでは空隙を小さく設計する必要があるため、負荷時のローター変形を極めて慎重に管理しなければなりません。
チームはSimScaleの有限要素解析 (FEA) を活用し、材料限界を超えることなく目標回転数を達成するためのローターアセンブリ設計を進めました。初期のFEAでは、外周の保持リングに1,000MPaを超える応力が発生することが示され、鋼材では破断する可能性があるため、カーボンファイバースリーブの採用が必要であると予測されました。その後、20以上の形状案を反復検討し、アルミニウムと鋼材の接着方法を最適化することで構造剛性を高め、曲げ変形を抑制する設計へと改良していきました。

FEAシミュレーションにより、重い鉄心とアルミニウム製スポークの質量分布の違いによって、高速回転時に遠心力が作用し、ローターディスクが中央のステーターから外側へ皿状に変形 (ディッシング) することも明らかになりました。Maximilianは次のように説明しています。「これは非常に有益な発見でした。というのも、この変形はローターとステーターの接触を防ぐ自己制御的なメカニズムとして機能するからです。空隙がわずか0.6mmしかない設計では、極めて重要な考慮事項です。」

電磁界解析: 見えない現象の可視化
Emil Motorsは、迅速な反復設計のために2Dシミュレーションツールを活用していますが、モーター効率に直結する複雑な3次元電磁現象の解析にはSimScaleを使用しています。
鉄心の磁気飽和度の最適化
開発チームは3次元の「無負荷」シミュレーションを用いて、鉄心内部の磁束分布を可視化しました。これにより、ステーターのティースおよびバックヨーク (バックアイアン) の寸法を精密に設計することが可能になりました。鉄心が薄すぎると磁束が飽和し、性能が制限されます。一方で厚すぎると、モーターは重量が増し、応答性が低下します。3次元で磁束密度をマッピングすることで、Emil Motorsは材料使用量の最適な閾値を特定し、磁気飽和を損なうことなく余分な鉄材を削減して軽量化を実現しました。

漂遊損失の特定
3Dシミュレーションの最も重要な価値は、「漂遊損失 (漏れ損失)」の特定にありました。これは、磁場がアクティブコアの外へ漏れ出し、ハウジング、バックプレート、シャフトといった周辺の構造部品を通過する箇所で発生する損失です。「これらの部品を一般的な軟鋼で製作すると、磁性を持ってしまいます」とMaximilianは述べています。「その結果、機械性能に無視できない影響を及ぼす可能性があります。」
漏れた磁場がこれらの導電性部品に作用すると、不要な渦電流が誘起されます。これによりトルクには寄与しない熱が発生します。これらの部品は形状が複雑で、2D平面の外側に存在するため、こうした損失は2Dシミュレーションでは捉えることができません。SimScaleの3D解析は損失の「ヒートマップ」を生成し、どの構造部品がエネルギーを吸収しているかを正確に可視化しました。この知見により、チームはハウジング形状を見直して磁性部品と筐体との空隙を拡大するとともに、特定の部品を非磁性材料へ変更することで、これらのエネルギー損失を効果的に抑制しました。
流体解析: 空力抗力の低減
もう一つ定量化すべき損失要因が、ローターに作用する空力抵抗です。16,000RPMという高速回転下では、モーター内部の空気は気体というよりも粘性流体のように振る舞います。その結果、「回転空気抵抗損失」と呼ばれる損失が発生し、ローターの回転を妨げる空気抵抗として作用します。

Maximilianは、この影響を定量化し、その低減方法を探るために内部空力シミュレーションを実施しました。解析結果から、ローターと外側ケーシングの隙間を小さくすることで、環状空間内の乱流レベルが低減し、それに伴いローターに作用する抗力も小さくなることが分かりました。これを受けて設計チームは、モーター全体の効率向上を目指す取り組みの一環として、ローター周囲のクリアランスを最小化する方針を採用しました。Maximilianは次のように述べています。「永久磁石モーターと同等の効率を実現するという目標を達成するために、私たちは電磁設計、熱マネジメント、機械設計、さらには空力設計に至るまで、モーターのあらゆる側面を最適化しています。」
将来の展望
SimScaleの戦略的な導入により、Emil Motorsは本来であれば数年を要する研究開発プロセスを、クラウドネイティブな効率的ワークフローへと凝縮することができました。SimScaleをOnshapeと直接統合することで、CADからシミュレーション結果取得までをシームレスにつなぎ、設計反復サイクルを2倍に高速化しました。2025年10月には、同社は試作機のハードウェア検証に成功したことを発表しました。これは、非同期ラジアルフラックスモーターが産業用途として実現可能であることを示す重要なマイルストーンです。

Maximilian Güttinger
CEO & Co-founder, Emil Motors
If we didn’t use simulation to the extent that we’re using it, we would have to build at least one more full prototype. That would be tens of thousands of euros more. And ultimately, you can’t improve a design if you don’t understand the effects that are defining performance.
現在のように徹底してシミュレーションを活用していなければ、少なくとももう1台はフルスケールの試作機を製作する必要があったでしょう。それには数万ユーロの追加コストがかかります。そして最終的に、性能を左右している要因を理解していなければ、設計を改善することはできません。
今後、Emil Motorsは検証済みのシミュレーションモデルを活用し、現在の12,000RPMという試験上の限界から、最終目標である16,000RPMへの到達を目指しています。熱・構造・電磁界といった課題を並行して解決することで、同社はレアアース材料への業界依存を打破し得るモーターを実現しました。これは、電気自動車業界にとってより持続可能な未来を切り拓く技術基盤となるものです。
本記事は、https://www.simscale.com/customers/emil-motors-high-performance-ev-drives/の抄訳です。
