頸動脈狭窄症について
頸動脈は首の側部にある、大脳に血液を送る重要な血管です。頸動脈狭窄症は、動脈硬化の進行に伴い発生します。血液内のコレステロールが血管の壁に蓄積し、プラークを結成することで、血液に通り道が細くなってしまう病気です。これによって血管に大きな圧力がかかり、血管が破裂することで脳梗塞を引き起こす可能性があります。
1. 解析設定
SimScaleで血流解析を行います。今回は通常の頸動脈と、頸動脈狭窄症により血管が60%細くなったものを想定して、血液流動の違いを比較します。
血液はせん断速度に応じて粘度が変わる非ニュートン流体です。ここでは、次の式で表されるCarreau-Yasudaモデルを用いて再現します。
\[\eta=\eta_{\infty}+(\eta_0-\eta_{\infty}){1+(k\dot{\gamma})^2}^{(n-1)/a}\]
ここで、\(\eta\): 粘度、\(\eta_{0}\): せん断速度ゼロにおける粘度、\(\eta_{\infty}\): せん断速度無限大における粘度、\(\dot{\gamma}\): せん断速度、\(k, n, a\): 物質固有のパラメータです。今回は、\(\eta_{0}=0.00005283[\mathrm{m^2/s}], \eta_{\infty}=0.000003255[\mathrm{m^2/s}], k=3.313[\mathrm{s}], n=0.3568, a=2\)とします。
2. 解析結果
血管の壁面にかかるせん断応力WSS (Wall Shear Stress)のコンター図を示します。WSSが高いほど血管に負荷がかかり、血管が破裂し脳梗塞を発症するリスクが高まります。通常の場合に比べて、頸動脈狭窄症では流路が細くなった部分と分岐部でWSSが大きいことが分かります。シミュレーションによって頸動脈狭窄症では、狭窄部でない場所でもWSSが大きくなり、脳梗塞のリスクが高まることが分かりました。
狭窄症の場合にWSSが大きくなる原因について把握するために、血流の流速を観察します。次の画像は流跡線に速度コンターでカラーリングしたものです。狭窄ありの頸動脈の、狭窄が起きている左側の血管は、狭窄部に流れが集中することにより流速が大きくなり、WSSも増加したと考えられます。また、狭窄が起きていない右側の血管は、左側の血管の抵抗が大きく流れにくいため右側の血管に血流が集中することで流速が大きくなっています。この大きな流速が垂直に近い角度で当たる分岐部でWSSが大きくなったと考えられます。
血流解析は、心血管疾患の診断や治療計画において不可欠です。血流の異常は心臓発作や脳卒中のリスクを高めるため、解析により早期発見や最適な治療が可能となります。さらに、手術や治療後の効果評価にも役立ちます。また、個々の血管形状や病状が異なるため、モデル化が難しく個別の血流解析が求められます。SimScaleはシミュレーション用のワークステーションの準備は必要なく、一般的なノートPCのブラウザから、すぐにお使いいただくことができます。すぐに、どこからでもシミュレーションできるSimScaleは医療現場でも活躍しています。
SimScaleは無料でアカウントを作ってシミュレーションをお試しいただくことができます。