概要

このチュートリアルでは、シアタールーム内のダクトの配置を解析し、換気システムの有効性と熱的快適性を評価します。

図1: 座席付近断面での温度の可視化

このチュートリアルでは、次のことを学びます。

  • 熱的快適性のシミュレーションのセットアップと実行
  • 境界条件、材料、その他のプロパティの割り当て
  • Standardアルゴリズムによるメッシュ作成

以下の手順で解析を実施します。

  • シミュレーションのためのCADモデルを準備します。
  • シミュレーションの条件を設定します。
  • メッシュを作成します。
  • シミュレーションを実行し、結果を評価します。

チュートリアルの実行には、SimScaleのCommuniyアカウント(無料)の作成が必要です。クレジットカード不要で1分で登録できます。

1. CADモデルの準備と解析タイプの選択

まず、下のリンクをクリックしてください。ジオメトリを含むチュートリアルプロジェクトがワークベンチにコピーされます。

図2: 熱的快適性の解析に使用される劇場のCADモデル

流体領域の抽出を自分で行いたい場合は、Theater - without flow volume extractionのジオメトリを使用し、CADモードツールから実施できます。

図3: 流体領域の抽出を行わないシアタールームのモデル。CADモードに入るボタンは青色でハイライトされています。

図3でハイライトされているアイコンをクリックすると、CADモードに移行し、流体領域を抽出できます。また、Theaterジオメトリに対して行われたCADモードの操作を見て、同じことを繰り返すことができます。

流体領域の抽出後、以下のSaved selectionsを割り当てることで作業を進めることができます。Theaterジオメトリでは以下のセットがすでに作成されています。

  • duct outlet
  • duct inlet
  • seats
  • seating floor

例えば、ダクトの流出部にSaved selectionsを設定するには、次のようにします。

  1. 下図のように、流出部分をクリックします。
  2. +アイコンを選択し、duct outletと名前を付けます。
図4: duct outletSaved selectionsの作成

残りのセットについても、これを繰り返します。

図5: 境界条件とメッシュの細分化に使用するSaved selections

💡Tips :
今後、ご自身でジオメトリを準備してシミュレーションを行われる場合、CADモデルの前処理が必要な場合があります。
CADモデルに含まれている小さなフィーチャー・フィレット・R面などが、現象と解析結果に与える影響が低いと考えられる場合、SimScaleにインポートする前にそれらの詳細を削除することをお勧めします。また、ソリッドのボディ同士は干渉しないようにし、すべて互いに接触している必要があります。

2.1. シミュレーションツリーの作成

シミュレーションツリーを作成するために、Simulationsタブの隣にある+をクリックします。流体の温度変化により密度が変化し、重力で流体が移動する場合に使用するConvective Heat Transferを選択します。最後にCreate Simulationボタンを押します。

図 6: Convection Heat Transferの選択

この時点で、新しいシミュレーションツリーが表示されます。シミュレーションツリーの先頭をクリックすると、以下のグローバル設定が表示されます。

図 7: シミュレーションのプロパティでTime dependencySteady-stateに、Turbulence modelを k-omega SST に設定する
  • k-omega SST乱流モデルを選択します。この乱流モデルは、k-omega モデルと k-epsilon モデルをブレンドしたモデルで、両方の利点を生かすことができます。

このプロジェクトでは、Radiationはオフに切り替えられています。しかし、絶対零度より高い温度の物体はすべて輻射熱を放出し、伝導や対流とは対照的に、この現象は媒体を必要としません。シミュレーションが高温になるとより支配的になります。

2.2. 材料と境界条件の設定

2.2.1. 重力の設定

シミュレーションツリーのModelをクリックし、ドメインに作用する重力を定義します。この場合、重力は負の y 方向に定義されます。

図 8: 重力のプロパティを追加する

2.2.2. 材料の設定

Materialsの横にある+アイコンをクリックします。

図9: 流体領域に材質を追加

マテリアルライブラリでAirを選択して、流体領域に割り当てます。

図 10: マテリアルライブラリでAirを選択する

Airを選択し、Applyを押します。なお、任意のマテリアルを選択し、プロパティを編集することもできます。

新しい材料を選択すると、パネルで材料物性を確認できます。

図 11: 流体領域に使用される空気の特性

流体領域が1つしかないため、SimScaleプラットフォームは自動的にFlow regionに材料を割り当てます。チェックボタンを押して設定を確定します。

2.3. Initial Conditions

Initial conditionsのパラメータは通常、デフォルトのままで十分です。これらは、シミュレーションの結果に影響を与えないことに注意してください。しかし、これらのパラメータが合理的に見積もられていれば、解はより速く収束し、全体的な収束の安定性は改善されます。

2.4. Boundary Conditions

💡Tips:
流入面と流出面の境界条件は、次の2つの方法で定義することができます。
・ 流入条件 (ドメイン入口での速度、流量、または圧力を定義)
・ 流出条件 (ドメイン出口の吸込速度、流量、圧力を定義)
壁は、特定の温度や熱伝導のパラメータで定義することができます。
表面熱源はfixed temperatureまたはturbulent heat sourceで定義できますが、断熱条件はadiabaticで定義できます。
サーフェスを未設定にすることで、デフォルトの「No-slip」壁条件が適用されます。

ここでは、流入速度と流出圧力を割り当てます。座席には、観客がいるものとし、人間の体温を仮定した固定温度値を設定します。

図12: 境界条件の概要

境界条件を割り当てるには、Boundary conditionsの横にある+アイコンをクリックします。次に、表示されるメニューで希望のタイプを選択します。

図 13: 新しい境界条件の追加

2.4.1. Velocity Inlet

前述のように、2つのダクトの流入面には流量を設定します。新しいVelocity inlet条件を追加し、以下のステップに従います。

  • Velocity typeFlow rate
  • Flow rate typeVolumetric flow
  • Volumetric flow rate: \(0.3m^3/s\)
  • Temperature: \(15.85^\circ C\)

Saved selectionsに境界条件を割り当てるには、Assignmentオプションがオンになっていることを確認し、右側のツリーから目的のSaved selectionsを選択します。

図14: ダクトの入口に体積流量を設定

2.4.2. Pressure outlet

ダクトの流出面には、固定ゲージ圧の流出圧力として0 Paを入力します。

図 15: ダクトの流出面に固定値として0 Paを入力

2.4.3. No-slip walls

座席には、No-slipの壁条件を使用し、表面温度として29.85 ℃を入力します。

図 16: 座席のNo-slipの壁条件

2.5. Numerics と Simulation Control の設定

NumericsSimulation Controlの設定は、通常、デフォルトのままで問題ありません。経験豊富なユーザーは、より良い収束のために手動で設定を変更できます。このチュートリアルでは、デフォルトのMaximum runtimeよりシミュレーションに時間がかかるため、Muximum runtimeを30,000秒に変更します。

図17: Maximum runtimeが入力されたSimulation control

💡Tips:
シミュレーションのMaximum runtimeは、実時間で指定します。シミュレーションの実行がこの時間を超えると、解析はキャンセルされます。

3. Result Control

Result controlは、デフォルトでは計算されない特別な量を計算するようソルバーに要求するための設定です。今回は、熱的快適性パラメータの出力を設定します。

そのために、図のようにResult controlの下のField calculationsの隣の+をクリックし、Thermal Comfort Parametersを選択します。

図18: Thermal Comfort Parametersを設定する

開いた設定パネルで、デフォルト値のまま青いチェックマークボタンをクリックしてパネルを閉じます。

4. メッシュ

Meshをクリックして、次の図に示すグローバルメッシュの設定にアクセスします。Standardアルゴリズムを選択し、設定します。

  • Finenessを9に設定します。
  • Advanced settingsで、Small feature suppressionを0.001に設定します。
図19: 自動サイズ調整機能付きStandardアルゴリズムの設定画面

✅計算実施済みのプロジェクト:
解析条件の設定とシミュレーション計算がすでに実施済みのプロジェクトをこちらからご確認いただけます。

5. 解析の実行

Simulation Runsの隣にある+アイコンをクリックして、解析を開始します。

図20: 解析開始前のシミュレーションツリー

6. ポスト処理

熱的快適性では、通常、PMV (Predicted Mean Vote)PPD(Predicted Percentage of Dissatisfied)を評価します。これらの値は以下の範囲内である必要があります。

  • PMVの有効範囲:-3 (冷たい)〜+3 (熱い)
  • PPDの有効範囲:5%~100%

6.1. PMV (Predicted Mean Vote) Parameter

PMV は、7 段階の熱感覚スケールで居住者グループが感じる熱的快適性の平均値を予測するための指標です。居住者の体内熱生産とその熱損失が同じであるときに平衡状態とみなされます。個人の熱平衡は、身体活動レベル、衣服の断熱性、および温熱環境のパラメータによって影響を受ける可能性があります。例えば、居住者が窓の開閉による自然換気など、室内温度をコントロールできる場合、一般に熱感覚スケールではより良い環境として認識されます。

欧州での基準に適合させるためには、PMVの値がこれらの範囲内にあることが必要です。

  • PMVの快適範囲
    • ASHRAE55推奨値:[-0.5, 0.5]
    • ISO 7730推奨値
      • ハードリミット: [-2、+2]。
      • 新しい建物: [-0.5, +0.5]
      • 既存の建物: [-0.7, +0.7]

熱的快適性の観点からは、PMV値は中立(ゼロ)が理想的です。居住者周辺のPMVレベルを解析するために、まず計算領域からダクトと外壁を隠してみましょう。これは、内部がよく見えるようにするためです。

  1. 面選択を有効にした状態で、削除する面を選択します。
  2. 面を選択したら、ビューワを右クリックします。
  3. Hide selectionを選択します。
図 21: 計算領域の外側の面を選択して非表示にすることで、内側の面をより鮮明に見せることができる

この操作で、劇場の内部が見えるようになります。

図22: 視界を遮っていた面を非表示にした後の劇場内部の様子

座席の周りのPMVを分析する良い方法は、Cutting planeフィルタを使うことです。次の画像はその一例です。

  1. 新しい切断面を作成するには、フィルターリボンからCutting Planeをクリックします。
  2. 座席は斜めになっているので、Orientationタブを展開し、法線方向を X で-0.27、Y で1、Z で0に調整します。
  3. 同様に、Positionタブを変更して、関心領域に切断面を配置することができます。
  4. 最後に、ColoringPredicted Mean Voteに調整します。
図23: Cutting planeは高度なカスタマイズが可能で、さまざまな位置、方向、色付け、ベクトルなどのオプションが選択できます。

これで、座席の周りのPMV値が見えます。いくつかの領域では-0.5から0.5の範囲を外れていることが確認できます。

2.2. PPD (Predicted Percentage of Dissatisfied) Parameter

PPDは、不快感を経験すると予測される人の割合を示します。局所的な不快感を引き起こす主な要因は、居住者の身体の不要な冷却又は加熱です。一般的な要因としては、すきま風、足首と頭の間の垂直方向の温度差が異常に大きいこと、床の温度などが挙げられます。

PPD ASHARE 55によると、推奨される快適性の範囲は、0%から20%の間です。 前回作成した切断面をそのまま使用して、ColoringPredicted Percentage of Dissatisfiedに調整します。

図24: PPDパラメータの分布

PMVとPPDの結果は両方とも、この劇場の熱的快適性の基準を満たさないことを示しており、ダクトに関する新たな対策を講じることで改善する必要性があることを示唆しています。