現在、多くの熱流体解析の商用ソルバーで採用されている有限体積法は、ボディフィットメッシュと呼ばれるメッシュを作成します。ボディフィットメッシュは固体側の形状を厳密に再現する必要があるため、電子機器の小さな部品を再現した解析が難しいという課題がありました。次の図のように詳細モデルでの解析は不可能もしくは莫大な計算量を必要としたため、熱流体解析をするためにCADの簡素化 (クリーンアップ)が必要でした。CADの簡素化 は、解析のオペレーションの中で最も時間を要する工程であり、試行錯誤のスピードを上げるためのボトルネックとなっていました。

設計用のCADモデル (詳細モデル)
熱流体解析用に作成した簡素化モデル

SimScaleに搭載されている埋め込み境界法 (Immersed Boundary Method)を用いると、CADの簡素化をせずに詳細モデルのまま計算コストを抑えて計算することができます。

埋め込み境界法とは

従来のボディフィッティングメッシュでは、メッシュは固体形状に完全に沿って作成されるため、固体と流体の境界は必ずメッシュの境界となります(図1)。一方、埋め込み境界法では、メッシュが固体の形状に従わず、固体がメッシュに「埋め込まれる」形で作成されます(図2)。これにより、流体と固体の境界部分が同一のメッシュセル内に収まり、そのセルには流体と固体の両方が含まれることになります。このとき、固体が流体に与える影響は、ナビエ・ストークス方程式における体積力としてモデル化されます。埋め込み境界法では、三次元形状を簡易に認識し、固体の影響を数式的に表現する手法といえます。

図1 ボディフィットメッシュ (固体形状に沿った形でメッシュが作られるため細かい形状だとメッシュが多くなる)
図2 埋め込み境界法 (メッシュで固体と流体の界面を厳密に再現しないためメッシュ数をを削減できる)

1. 解析設定

SimScaleで設計用のCADモデル(詳細モデル)に対して熱流体解析を行います。物性値の設定は以下の画像に示す通りです。

生分解性プラスチック (PLA)
シリコン
ポロプロピレン

基板は内部に銅箔の層があることから、面方向と厚み方向で熱伝導率の異方性があります。今回、基板は同一ボリュームとなっていますが、これに対して熱伝導率の異方性を定義しています。

また、発熱源の設定は次の通りです。

CPU 6W
その他のチップ 各0.5W

この解析では基板の上部に冷却用のファンを設定します。今回は簡単のため、次の図で青くハイライトされた領域から一様風が流入するとします。一様風の流速は1, 3, 5 m/sの3種類としパラメトリックスタディを行います。クラウドで計算するSimScaleでは、最大500個までジョブ並列できるため、3つの解析も同時に行うことができます。

ファン領域の設定

2. 解析結果

解析結果の動画を示します。次の画像は固体表面の温度コンターです。ファン流速が上がるにつれて、全体的に温度が減少していることが分かります。特に1m/sから3m/sになったときの温度低下が大きいです。一方で、3m/sから5m/sにかけてはあまり変化がありません。ファン流速を大きくすると消費電力が大きくなるトレードオフがあるので、できる限り少ない電力で効率的に空冷できる3m/sを選択肢とすることも考えられます。

ファン流速 1 m/s

ファン流速 3 m/s

ファン流速 5 m/s

今回は153万メッシュ、1,000イタレーションの定常計算で、70分で終了しました。詳細モデルのパラスタもすぐに完了します。

SimScaleは無料でアカウントを作ってシミュレーションをお試しいただくことができます。
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