電磁誘導の原理やファラデーの法則、レンツの法則、渦電流、変圧器などへの応用まで、図解とともにわかりやすく解説します。
電磁誘導の世界 - 現代技術を支える目に見えない力
1831年、マイケル・ファラデーによって発見された「電磁誘導」は、磁場と電流の間にある驚くべき関係を明らかにし、エネルギーの生成に対する私たちの理解を根本から変えました。電磁誘導の原理とは、変化する磁場が導体内に電流を生み出すというものです。つまり、電池がなくても磁場の変化によって電流を発生させることができるのです。磁石というと、どこか不思議で、目に見えない力を持つ存在として私たちを惹きつけます。しかし実は、こうした何気ない磁石が、私たちの日常を支えるさまざまなテクノロジーと深く結びついているのです。
たとえば、にぎやかな都市を思い浮かべてください。街を照らす無数の街灯、稼働する工場、家庭で使われるさまざまな電化製品——。これらの電力はどこから来ているのでしょうか?その答えが、まさに「電磁誘導」の仕組みにあります。
SimScaleでは現在、電磁場解析をクラウド上で実施できる新しいシミュレーションカテゴリーを立ち上げようとしています。まずは静磁場に焦点を当て、今後は幅広い産業分野への応用を視野に、電磁解析機能を順次拡充していく予定です。
この記事では、この電磁誘導という現象について、原理から仕組み、そして実際の活用例に至るまで、わかりやすく解説していきます。電磁誘導がいかにして現代のテクノロジーを支える基盤となっているのか、明快にひもときます。
磁場の基礎知識
電磁誘導の概念を正しく理解するためには、まず磁場の性質についての基本的な知識を持つことが役立ちます。磁場は電場とは異なる性質を持ち、直感的に捉えるのが難しい場合もあります。
電磁気学の分野では、「磁場 」という言葉が指すものは、密接に関連する2つのベクトル場です。これらはそれぞれ記号\(B\)と\(H\)で表されます。
- \(B\): 磁束密度 (magnetic flux density) …… 単位はテスラ [\(T\)]
- \(H\): 磁場の強さ (magnetic field strength) …… 単位はアンペア毎メートル [\(A/m\)]
電場が電荷から直接生じるのに対し、磁場は「磁荷」が存在しないため、より複雑な仕組みで発生します。この磁荷の不在によって、磁束密度\(B)\の「磁力線」は常に始点も終点も持たず、閉じたループを形成するという特徴があります。
ここで言う「磁場」とは、主に磁束密度\(B)\のことを指しています。磁場は、磁荷がないことから直接的には生じません。その代わりに、電荷の運動 (つまり電子の移動) によって間接的に生成されます。これは、ワイヤ内を流れる電流も同様で、電流とは多くの電子が一方向に動くことで成り立っています。
したがって、導線に直流電流 (DC) が流れると、その導線の周囲に円形の磁場が発生します。この現象を図1に示します。

磁力線には、磁場のふるまいを理解するための重要な特徴があります。まず、磁力線は切れ目のない閉じた曲線を形成し、必ずループ状になります。始まりも終わりもなく、連続的に空間を巡るのが特徴です。また、磁力線の密度は磁場の強さを示します。線が密集しているほど磁場は強く、逆に物体から離れるにつれて線がまばらになり、磁場は弱くなります。
さらに、磁力線同士は決して交差しません。もし交差してしまうと、その交点での接線が2つの異なる方向を持つことになり、磁場の性質と矛盾してしまうためです。
※ただしこれは、磁場がゼロでない点において成り立つ性質です。


2つの磁石を紙の下に置き、その上に鉄粉をまくと、鉄粉が磁力線に沿って並びます。
左: 異なる極 (N極とS極) の配置による引き合う磁場
右:: 同じ極 (N極同士またはS極同士) の配置による反発する磁場
ファラデーの電磁誘導の法則
ファラデーの電磁誘導の法則は、電磁気学の基本原理のひとつであり、磁場と電流の関係を深く理解するための鍵となる法則です。この法則は、著名な科学者マイケル・ファラデーによって1831年に発見されました。
この法則の本質は、導体と磁場の間に相対的な動きがあるときに電圧 (起電力) が発生し、その大きさは磁束の変化の速さに比例するというものです。つまり、磁場を利用して電圧 (起電力) を発生させることができるのです。そして、回路が閉じていれば電流が流れます。
導線のまわりに生じる磁場
この法則を理解するために、まずは電流が流れる導線を例に説明します。前の節でも触れたように、導線に電流が流れると、その周囲に磁場が生じます。この現象はアンペールの法則として知られています。
この導線をコイル状に巻くと、コイルのまわりにできる磁場は一段と強くなります。これは、各ループが生み出す磁場が重なり合い、コイルの中心に集中した磁場を形成するためです。以下の図では、緩く巻かれたコイルにおける磁場の様子が示されています。
さらにコイルを密に巻いていくと、磁場はコイル全体にわたってより均一に分布するようになります。磁場の強さは、電流を増やすだけでなく、巻き数を増やすことでも強化されます。
コイルが長く直線的に巻かれている場合、それは「ソレノイド (solenoid)」と呼ばれ、棒磁石とよく似た均一な磁場をつくり出すことができます。

電磁誘導が起こる瞬間
それでは、コイルから電流を取り除き、コイルの中心に棒磁石を入れたらどうなるでしょうか?この棒磁石を前後に動かすと、その動きによってコイル内の磁束が変化し、コイル内に電流が誘導されるのです。
逆に、棒磁石を固定したままコイルの方を磁場内で前後に動かしても、同様に電流が発生します。つまり、磁場が変化すれば、コイル内に電圧 (起電力) と電流が生まれるということです。この現象こそが「電磁誘導 (Electromagnetic Induction)」と呼ばれます。
ここで理解しておきたいのは、棒磁石には磁場が存在し、その磁力線がコイルを通過しているということです。つまり、コイルには磁束 (magnetic flux) が流れ込んでいます。この磁束が変化することによって、起電力 (EMF) が誘導され、それにより電流が発生します。磁束の変化は、磁石を動かしても、コイルを動かしても生じさせることができます。
このプロセスは、図5で示されているように、電流計 (ガルバノメーター) を使うことで視覚的に確認できます。電流計は、電線に電流が流れているかどうかを測定する装置です。電流が流れていないときには針が左に振れ、電流が生じると針は右に動きます。
この例では、導線が鉄心に巻かれており、その鉄心に向かって磁石が出し入れされます。この動きによって、鉄心を通る磁束が変化し、導線に電流が誘導されます。磁石を動かしている間は電流が生じ、電流計の針が動きますが、磁石が静止した状態では磁束の変化がなくなり、電流も流れなくなります。
ここで重要なのは、磁石が動くか、コイルや鉄心が動くかは問題ではないという点です。磁束が変化し続けているかどうかが決定的に重要であり、変化があれば起電力が生まれ、電流が発生するというのが電磁誘導の本質です。
誘導起電力の強さに影響する要因
ここで気になるのは、誘導される起電力 (EMF) の強さ、そして閉回路の場合は電流の大きさに影響を与える要因です。主に、次の3つの要素が影響します。
- コイルの巻き数を増やすこと
コイルに巻かれている導線の巻き数を増やすと、誘導される起電力 (EMF) は大きくなります。これは、各巻きがそれぞれ起電力を発生させ、それらが加算されるためです。たとえば、100回巻かれているコイルでは、単一の導線に比べて100倍の磁場との相互作用が起こるため、EMFも100倍になります。 - 磁石とコイルの相対的な動きの速さを上げること
コイルが磁場内をより速く動くと、磁力線を切る速度 (磁束の変化率) が増し、結果として誘導される起電力が大きくなります。これは、磁場とコイルの間のフラックスリンク (磁束のつながり) がより急激に変化するためです。つまり、速く動かすことで電磁誘導の効率が高まり、強いEMFが得られるのです。 - 磁場の強さを高めること
コイルが動く磁場が強くなると、コイルが交差する磁力線の本数が増えます。この結果、磁束密度が上がり、フラックスリンクも大きくなって、より強い起電力が誘導されます。つまり、磁場の強さを調整することで、電磁誘導によって発生するEMFの大きさを制御することが可能になります。
レンツの法則 (Lenz's Law) と電磁誘導の方向
レンツの法則は、電磁誘導における基本原理のひとつであり、磁場の変化によって生じる誘導電流の向きを理解する手がかりとなります。この法則は1834年、ロシアの物理学者ハインリッヒ・レンツによって提唱されました。エネルギー保存の法則に基づいており、磁場と誘導電流の間の関係を明らかにしています。
誘導電流の向き
レンツの法則によれば、誘導電流は常に、それを引き起こした磁場の変化に逆らう方向に流れます。つまり、誘導電流によって新たに発生する磁場は、元の磁場の変化を打ち消すように働きます。このふるまいは、磁場と導体内の電荷の動きの相互作用によって説明されます。
この概念を視覚的にイメージするために、図5のように磁石を導線のループに近づける場面を考えてみましょう。磁石がループに近づくと、ループを通過する磁束が増加します。すると、レンツの法則に従い、その増加を打ち消すような磁場を生じさせる向きで電流がループ内に流れます。この逆向きの磁場が磁束の急激な変化を抑える役割を果たし、結果としてエネルギー保存の法則が守られるのです。
逆に、磁石をループから遠ざけると、ループを通る磁束は減少します。このときも、レンツの法則に従って、減少を抑える方向に誘導電流が流れ、磁束の変化を打ち消す磁場が形成されます。これによっても、やはりエネルギー保存の原理が成立します。
電磁誘導におけるエネルギー保存の考え方
ここで言うエネルギー保存とは、磁場に関するエネルギーがどこから来て、どこへ行くのかを明確にすることです。結論から言えば、磁場のエネルギーは、それを生み出す電流が持っているエネルギーから供給されています。
たとえば、電源・抵抗・導線から成るシンプルな回路を考えてみましょう。この回路に電流が流れ始めると、その周囲に磁場が形成され、そこにエネルギーが蓄えられていきます。
このとき、レンツの法則が作用し、磁場の変化に逆らう方向の電場 (逆起電力/逆EMF) が発生します。これは、電磁気学におけるニュートンの第3法則に相当する関係であり、磁場の変化に対抗してエネルギーの過剰な流入を防ぎます。
回路が定常状態に至るまで
電源を入れると、導線の周囲に磁場がゼロから徐々に形成される過程が始まります。このとき、レンツの法則により、磁場の変化を妨げるような電場 (電圧) が生じます。この電場 (または電圧) は、電流が一定値に達するまで持続し、電流は一瞬で最大値に達するのではなく、徐々に増加していきます。
電流が増加する間、導線には電圧降下が生じます。この電圧と電流が存在するということは、回路内で電力が消費 (あるいは移動) されているということになります。現実の導線では抵抗損失 (発熱など) が発生しますが、ここではその影響を無視することにします。
このとき消費された電力は、導線周囲の磁場に蓄えられたエネルギーに相当します。これは、自動車を加速させるためにエネルギーを必要とするのと同じように、回路内の電流を変化させるにもエネルギーが必要であるということを意味しています。
レンツの法則は、自然界がエネルギー保存の原理を守るための仕組みと捉えることができます。エネルギー保存の法則は物理学の基本原理であり、レンツの法則はそれを電磁気の分野でどう実現しているかを示すものなのです。
渦電流
渦電流とは、変化する磁場にさらされた導電性材料内に発生する循環する誘導電流のことです。これらの渦を巻くような電流は、水の流れの中で発生する「渦 (eddy)」になぞらえて名付けられました。これは、磁場と導体の相互作用によって現れる興味深い現象のひとつです。
金属板のような導体が変動する磁場にさらされると、その内部を通過する磁束が時間とともに変化します。このときファラデーの電磁誘導の法則に従って、導体内に起電力(EMF)が誘導され、これによって渦電流が発生します。
渦電流は、導体内部で閉じたループ状に循環し、その結果として元の磁場の変化に逆らう局所的な磁場を生成します。一般に、磁場の強さや向きの変化を引き起こすような要因が存在すれば、導体内部に渦電流が生じる可能性があります。
また、通常の電流と同様に、渦電流もそれ自体の磁場を発生させます。レンツの法則に従えば、誘導される電流 (渦電流を含む) は、それを生じさせた磁場の変化を打ち消す向きに磁場を作るように流れます。
図6では、導電性の金属板が静止した磁石の上を通過するときに発生する渦電流の様子が示されています。金属板が磁石の左端に近づくと、そこでの磁場の強さが増加し、反時計回りの渦電流が誘導されます。この渦電流が作る磁場は、外部磁場に逆らう向きを持ちます。これにより、磁気的な抵抗力 (磁気抗力または磁気ダンピング) が発生します。
さらに金属板が磁石の端を通過して外側へ移動すると、今度は磁場から抜け出すことで磁束が減少し、時計回りの渦電流が発生します。この渦電流は下向きの磁場を作り、結果として外部の磁石を引き寄せる方向に力 (抗力) が働きます。これもまた、磁場の変化に対する自然の反応のひとつであり、渦電流の特徴的なふるまいです。

渦電流の実用的な影響
渦電流は、さまざまな影響を引き起こします。その中には有益な効果もあれば、望ましくない副作用もあります。代表的なものとしては、渦電流が導体内で発生する抵抗によって熱を生じる現象が挙げられます。この発熱現象は、たとえば誘導加熱 (IH: induction heating) のように、工業用途で制御された渦電流を利用して対象物を加熱する際に積極的に活用されています。
一方で、状況によってはエネルギー損失や機器への悪影響を招く場合もあります。たとえば、変圧器や電動モーターなどでは、渦電流によって無駄な熱エネルギーが発生し、装置全体の効率を低下させる原因となります。
このような電力損失を抑えるため、変圧器にはラミネートコア (積層鉄心) が採用されることが一般的です。図7に示されているように、ラミネートコアは一体成形の鉄心ではなく、表面に絶縁コーティングを施した薄い鋼板を層状に重ねた構造になっています。この構造によって、渦電流が隣接する層に流れ込むことが防がれ、各層内部に限られた範囲でのみ渦電流が発生します。その結果、渦電流の大きさが抑制され、エネルギーの損失が大幅に低減されるのです。
なお、もしCFD (数値流体力学) の分野に親しみがある方であれば、これはカルマン渦の剥離現象 (vortex shedding) とよく似た考え方だと捉えることができます。CFDでは、渦の影響を構造物に及ぼさないように、渦の発生や伝播を抑制する設計手法が用いられますが、渦電流の制御も同様の概念で設計されていると言えるでしょう。

さらに、渦電流は磁気ブレーキシステムにも応用されています。回転する金属ディスクやシリンダー内に渦電流が発生すると、その渦電流が抗力 (ドラッグ) を生み出し、回転運動を減速させる効果があります。この原理は、磁気ブレーキや渦電流式ダンパーなどの装置に利用されています。
電磁誘導の応用
磁場と電流の関係を理解することで、科学者や技術者たちはこの原理を活用し、さまざまな装置やシステムを開発してきました。電磁誘導は、私たちの生活や産業を支える多くの技術に応用されています。
主な応用例には以下のようなものがあります:
- 発電
- 電力用変圧器 (トランス)
- 誘導電動機 (インダクションモーター)
- ワイヤレス給電
- 磁気浮上 (マグレブ)
変圧器における電磁誘導の利用
電磁誘導のもっとも重要な応用のひとつが、変圧器 (Transformer)です。変圧器は、電力供給ネットワークにおいて欠かせない装置であり、電圧を変換しながら電気を長距離伝送できるようにすることで、効率的な電力輸送を可能にしています。
変圧器の基本原理は、2つのコイル (一次コイルと二次コイル) の間で起こる相互誘導 (mutual induction)に基づいています。
変圧器は、エネルギー保存の法則に従って動作します。この法則は、エネルギーは「生み出されることも消えることもなく、形を変えるだけである」とするものです。したがって、変圧器は電気を「作る」のではなく、電圧を変換する装置です。そしてこの変換は、電磁誘導のプロセスを通じて行われます。
具体的には、一次コイルに交流電流 (AC) が流れると、周囲に変化する磁場が発生します。この変化する磁場が、二次コイルに電圧を誘導します。
このとき、一次側と二次側の巻き数の比率を調整することで、電圧を昇圧 (ステップアップ) または降圧 (ステップダウン) させることができます。この仕組みにより、送電時は高電圧で送って損失を減らし、家庭や工場では安全な低電圧に変換して使用できるのです。

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