リチウム電池は、国際輸送規格であるUN38.3に準拠する必要があります。
飛行機に乗る際、ノートパソコンやその他の電子機器を預け荷物に入れてはいけないのはなぜか疑問に思ったことはありませんか?それは、電池が低圧状態に敏感で、液漏れして火災を引き起こす可能性があるためです。電池は衝撃や振動に敏感です。そのため、リチウム電池の国際輸送においては、UN38.3という規格に規定されている試験に合格することが求められています。UN38.3には複数の試験項目がありますが、その中でも T3規格は振動試験を行います。
この記事では、電気自動車(EV)用バッテリーモジュールとハウジング(筐体)の加振台試験を行う前に、SimScaleを用いてUN 38.3 T3規格を満たすことができるかを検証した事例を紹介します。
1. EVバッテリーハウジング(筐体)における振動解析の目的と背景
UN 38.3 T3の要件によると、バッテリーモジュールは7Hzから200Hzの振動試験において、液漏れ、ガス放出、破裂、発火を発生させないことが求められます。主な試験の詳細は以下の通りです。
- 正弦波振動波形の振動
- 試験はX、Y、Z方向すべてで実行
- 試験範囲:7Hz~200Hz
- 7 ~ 18 Hz: 1 Gの加速度が適用される
- 18 ~ 50 Hz: ピーク加速度は徐々に50 Hzで8Gまで上昇
- 50 ~ 200 Hz: 200 Hzまでピーク加速度は8Gで維持
SimScaleを使用することで、設計者やエンジニアは構造解析を実施し、製品にかかる応力が一定限度を超えないこと、また変形により干渉しないことを確認することができます。この設計プロセスやシミュレーション方法について、もう少し詳しく見ていきましょう。
シミュレーションを用いて、試験周波数範囲(7Hz~200Hz)において、バッテリーに「共振」モードが存在するかどうかを検証します。もしそのようなモードが存在する場合、必要な荷重条件(加速度1G~8G)における構造の応答を確認します。上記の戦略は、共振のリスクがあるかどうか、またリスクがある場合はピーク応力と変形がどこにあるのかを特定するのに役立ちます。これらの情報に基づき、UN 38.3規格への適合性を達成するために実際に試験を実施する前に設計変更を行うことができ、バッテリー製品の性能を向上させることができます。

2. 振動解析対象のCADモデル概要
SimScaleはほぼすべてのCADモデルを扱うことができます。モデルをCADモードにインポートし、モデルを検査し、必要な修正を加えた後、シミュレーションのセットアップに進むことができます。

3. 解析条件設定・実行
CADモデルをアップロードした後、必要な解析タイプを選択するだけで、画面上に条件の設定項目が並んだシミュレーションツリーが表示されます。
3.1 固有値解析
最初のステップは、固有値解析を実施します。これにより、200 Hz未満のモードを特定できます。
CADモデルがインポートされると、すべての接合部が自動的に識別されます。材料の定義においては、あらかじめSimScaleで用意されているデフォルトの材料ライブラリから材料を選択するか、独自にカスタマイズした材料を作成してユーザー材料に保存し、将来使用することができます。 そして、バッテリーケースの穴を指定してモデルを固定し、計算に必要なモードの数を指定します。解析を実行する前に、SimScaleの堅牢な自動メッシュ作成機能を使用するか、スイープメッシュ作成などの手動コントロールを追加して、要素数を減らしながら高品質なメッシュを作成することも可能です。
バッテリーモジュールの周波数解析を実行した結果、対象周波数範囲内で顕著なモードは確認されませんでした。最初のモードは233Hzです。一方、ハウジングは、少なくとも3つの共振周波数(72Hz、80Hz、138Hz)が存在するため、やや共振しやすいようです。振動試験中にハウジングが共振する可能性が高そうです。
3.2 周波数応答解析
周波数応答解析を実行する手順は、モード解析と非常に似ています。材料と境界条件の定義はモード解析と同じです。ただし、UN 38.3 T3の要件に従い、必要な周波数範囲をカバーするベース加振も含める必要があります。これは、実際の試験要件を示す表形式で入力できます。

調和解析は3方向(X、Y、Z)すべてで実行する必要があります。これは、SimScaleが提供するテンプレートシミュレーション手法を利用することで非常に簡単に実行できます。また、SimScaleはクラウドで実行されるため、3方向すべてを並列にシミュレーションできます。
4. 振動解析の結果
固有値解析により、調査が必要な周波数が得られました。具体的には、EVバッテリーモジュールには試験範囲内に固有モードがなく、最初の固有モードは233Hzです。一方、ハウジングには200Hz未満の固有モードが少なくとも3つあります。結果は表形式でエクスポートできます。

これで、周波数応答解析結果を確認して、構成部品の構造応答を検証する準備が整いました。試験範囲内にEVバッテリーモジュールの固有モードは存在せず、最も近いのは233Hzです。そこで、200Hzにおける解析結果を確認してみました。
EV バッテリー モジュールの Z 軸励起 (200 Hz) の最大変形 (左) - 1.8 mm - およびピーク応力 (右) - 50 MPa 以上
最大変位1.8mmは、モデルの公差を考慮するとクリアランスの問題は発生しないため、心配する必要はありません。一方、モジュールの取り付け穴付近では非常に高いピーク応力が発生していることがわかります。これは材料の構造的限界内ですが、これが実際の応力なのか、それとも応力特異点によるものなのかを詳しく調べる必要があります。
ハウジングを見てみると、変形と応力がかなり大きくなるため、少し「危険」になります。
144 Hz励磁時のバッテリーハウジングの変形。変形量は4mmを超える。

この構造はZ軸加振に非常に敏感です。144Hzでの変位を確認すると、特に中央のバッフルを中心に、モデルの大部分が4mm以上変形していることがわかります。バッテリーハウジングの全体サイズが小さいことを考えると、4mmの変形は、クリアランスの問題によりバッテリー内の構造的損傷の可能性を高める可能性があります。
さらに、応力が最大で発生する位置は、特に角部の取り付け穴周辺で、アルミニウム(ケース材料)の降伏点をはるかに上回っている結果となっています。この結果は非常に注視すべき事態であり、設計者として、実際の振動試験を実施する前に、ハウジングの設計を改善/強化する対策を講じる必要があります。
5. SimScaleシミュレーション設計の洞察
SimScaleは、EVバッテリーモジュールに関連する2つの異なる設計におけるモーダル解析と高調波解析のシミュレーションに役立ちました。バッテリーモジュールは、市場に投入される前に特定の要件を満たし、特定の試験に合格する必要があります。SimScale内で構造解析シミュレーション戦略を効果的に実装し、設計に関する貴重な知見を得られることを実感しました。これらをはじめとする多くのシミュレーション機能は、ブラウザとSimScaleプラットフォームからご利用いただけます。
項目 | EVモジュール | ハウジング(筐体)コンセプト |
---|---|---|
共振チェック | UN試験周波数範囲内に共振周波数は検出されず。 | 試験範囲内に共振周波数が3つ検出。振動試験中の共振リスクが高い。 |
振動の大きさ | Z軸方向の最大変位1.81 mmが、200 Hzの基本振動中に観測。最大変形による重要部のクリアランス問題なし。 | Z軸方向の最大変位4.3 mmが、140 Hzの基本振動中に観測。 |
高応力領域 | アルミハウジング内で50 MPa超の高応力領域を確認。 ピーク応力は幾何学的特異点に関連。角部のピーク応力に対してさらなる解析が必要。 特異点から離れた応力は100 MPa未満であり、安全率2の条件を満たす。 振動試験中の重大な構造損傷リスクは低い。 | アルミハウジング内で100 MPa超の大きなピーク応力を確認。 安全率2の最低条件を満たさない。 降伏応力を超える重大な応力。 振動試験中の構造損傷リスクが高い。 |
推奨事項 | UN38.3 T3振動試験に不合格となるリスクは低い。 本設計案は初期要件を満たしており、物理プロトタイピングおよび試験へ進める。 | UN38.3 T3振動試験に不合格となるリスクが高い。 物理プロトタイピング前にさらなる解析と設計変更が必要。 振動試験中の共振を避けるため、固有振動数の最低値を最大化することが推奨される。 |
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